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浪人

高校三年の冬、進路について悩むことはなかった、悪い方の意味で。
将来なりたいもの、やりたい事が全くなく、実家からは離れたいが、大学に行きたいとも思わなかった。確かにキラキラしたキャンパスライフで、バイトで仲良くなった女の子とボロボロアパートでランデブーみたいな憧れはあったが、本当にやりたい事がなく、親には良い大学を目指すという口実で、浪人生になった。

予備校も行かず、ちょこっとバイトをしながら、バイト以外は、家に居ずらいので、毎日、図書館に行って、雑誌やドラえもんの漫画などを読み漁っていた。という日々だったので、当然、大学にも受かることもなく、翌年は、予備校に行かされることになった。

予備校では、周りより一つ年上のため、知り合いが1人、2人くらいしか居なかった。
ある日、ちょっと強面で長身の男性(A君)と、白杖を使用している男性(B君)の二人が学校の入り口辺りで話し込んでいるのが見えた。
なんとなく、こんにちは、と軽く挨拶を交わしてみた。B君から「初めましてだよね?初めて聞いた声だったから」と、挨拶を返してくれた。強面の人も瞳がすごく綺麗で、話し方はファンキーだったけど、優しい人だった。
それから予備校で会うたびに話しをするようになるのだが、みんな音楽が好きということで、いつかの授業終わり、三人でカラオケ行くことになった。
B君は、盲目ではなく弱視なので、画面にくっつきながら、歌っていた。まるで壁ドンしてキスをする感じでモニターの歌詞を追っていた。大変だなぁとか同情の気持ちなんかどこへやらという感じで、大好きなアニメ曲を大熱唱し、何曲も楽しそうに歌っていた。

ほぼ視界がない状態で過ごすというのは、想像もし難く、本当に恐い。
困っている人を手助けしたい、と思う気持ちはある。だが実際、学生の時は、イジメられてる子を見て見ぬふりをしたし、電車で席を譲る勇気がなかったり、自動車事故を見たときは、足がすくんで動けなかったり、チキンだ。

人目を気にしない言動のバランスは難しいところだけど、人助けに関しては、周りが見えなくなってもいいくらい優しく強くありたい。

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