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ウルグアイ 10 政治編

ウルグアイでは15年ぶりに右派政権であるラガジェ・ポウ大統領の政策が誕生しています。前記事で5つのポイントを示しましたがそちらについて詳細を書いていきます。

(1)左派のレガシーを受け継ぐ穏健路線
(2)実利優先の通商政策とイデオロギー上の方針転換
(3)治安強化策
(4)緊急法の制定

(参考文献) 中沢知史(2022)「任期半ばに達したウルグアイのラカジェ・ポウ政権-右派連合の中間評価」,ラテンアメリカリポート2022vol39
https://www.jstage.jst.go.jp/article/latinamericareport/39/1/39_32/_pdf/-char/ja



左派のレガシーを受け継ぐ穏健路線

就任とほぼ同時にはじまったコロナ渦で政府はまず非常事態宣言を発出して出入国を停止、学校や政府機関を一時閉鎖しつつ、市民に対しては自発的に自宅にとどまるよう求めました。
(自発的にとどまることを国民お願いするところは日本と似ていますね)

ウルグアイでは、社会保障制度が機能し、市民が公的医療や失業給付にアクセスできたため、大多数の市民が外出自粛要請に従いました。

(ここは日本と違うかもしれません。日本も社会保障も手厚いとは思いますが手続きが若干煩雑、また必要書類も厳格な印象を受けます。例えば親族が生活保護を申請すると送られる「扶養照会」、自分の生活が苦しくても家族にバレたくないあるいは頼ることができない人はその「扶養照会」が家族にいくのが精神的に苦しく、申請できない事例もあります。若干タイトルがアグレッシブすぎる気がしますがこのようなことも起きているという参考にリンクをはります。)

ウルグアイ政府は、家賃や電気代等の支払い猶予、生活必需品の高騰抑制、中小企業への貸付など一連の経済補償を行い、ステイ・ホームによって被った経済的打撃をできるだけ食い止めようとしました。さらに、医師であるバスケス前大統領(左派)と長時間感染症対策について話し合うなど、コロナ対策を政治化しないジェスチャーによって野党からの協力を取り付けました。マイナスの経済成長や一時的に 100 万人当たり世界最多のコロナ関連死者数を記録するも医療崩壊を起こさず、乗り切り、国民の多くが政府のコロナ対策を支持しました。

実利優先の通商政策とイデオロギー上の方針転換

ウルグアイは南米南部共同市場(メルコスール)の原加盟国ですがこのメルコスールは加盟国全てが賛成しないと域外との貿易ができず、農業大国で牛肉、乳製品、コメ、大豆、木材パルプといった一次産品輸出に強く依存するウルグアイとしては、域外との自由貿易協定によりこれら産品を無関税で輸出することが死活的に重要です。そのため、左派政権時代からメルコスールのルールの緩和を模索しています。ボウ政権もその路線を引き継いでおり最大の貿易国である中国との自由貿易協定交渉が模索されています。
他方、イデオロギー上の方針転換はあります。例えばベネズエラ、キューバ、ニカラグア(アメリカから目の敵にされている国々ですね)に対して前政権は宥和的でしたが、ボウ政権になり、外務省がベネズエラとニカラグアに対して独裁政権と非難しました(今までも支持してたわけではいが批判することは避けていたとわたしは考えています。明確に態度に示したという意味で転換かと思います)。ただし、ウルグアイ政府は政権交代後も「リマ・グループ」(Grupo de Lima。ベネズエラの体制転換を促す目的で 2017 年に作られた米州の有志国グループ)には加わらない姿勢を貫いている。
(ベネズエラに対しては批判もしますが、圧力をかけるグループには入らなかったわけです。※リマグル-プは日本ではあまり知られていないかと思います。Google検索したら札幌すすきののラブホテルがトップに出てきました)

ウルグアイ政府はさらに、南米諸国連合(UNASUR)から脱退し、前バスケス政権で開始された米州相互援助条約(TIAR:リオ条約)からの離脱プロ
セスを停止し、参加国として引き続き同盟にとどまると表明しました。
(中南米はアメリカが良い面でも悪い面でも強い影響力をもっているのでそこの付き合い方がボウ政権になり、方針転換をしました)


治安強化策

近年、ウルグアイ国内におけるコカイン等違法薬物の押収量が大幅に増加しており潜在的なコカイン生産量が増加していること、犯罪組織が違法薬物の密輸ルートとして港湾や国境の管理が緩いウルグアイを利用し始めたことが理由として推測されます。
ラカジェ・ポウ政権は就任後、軍にブラジル、アルゼンチン両国境の警備強化を命じ、麻薬取引や密輸の監視に乗り出しています。ラカジェ・ポウは繰り返し警察と軍への支持を表明し、2021 年 12 月には国防大臣とともにコンゴ民主共和国を訪問、同地における国連平和維持活動に派遣されいるウルグアイ軍の兵士とともにクリスマスを過ごすなど軍や警察への距離が近い印象を与えます。


緊急法の制定

ラカジェ・ポウ政権の目玉政策が、緊急法(Ley de Urgente Consideración: LUC)の制定です。緊急法は、大統領が憲法上の権限(第 168 条)を行使し、議会に対し優先審議を求めることができるもので2020年7 月に可決成立しました。緊急法は、計 476 条におよぶ長大なもので、治安、教育、経済、農業、労働、住宅などの多岐にわたる分野を扱っていますが。とくに大幅な改訂が行われ、国民投票で重要争点となった部分に触れます。

「治安」については一言でいうと厳罰化です。

犯罪取り締まりの前線に立つ現場警察官の役割を強化する改正が行われ、また、 人員不足を補うため、退職した警官が銃器を携行することも認められるようになりました。さらに、 公務執行妨害や公共空間の不法占有、特定の薬物所持に対する罰則が重くなりました。加えて、暴行 や強姦、強盗、殺人等を犯したティーンエイジャーに対しては、従来認められていた家族訪問等 の特例措置が適用されなくなりました。

「教育面」については一言でいうと「公教育から競争力へ」でしょうか

 2008 年の教育基本法(Ley General de Educación)に大きな加筆修正が行われ、外部民間活力の導入や競争力といった文言が入りました。また、よりトップダウン型の教育行政が志向され、教育文化省の意思決定機関がウルグアイ共和国大学への諮問 を必須としなくなるいっぽうで、私立学校、軍・警察養成校の代表が新たに委員として加わるこ とになった。さらに、各県の地方教育委員会に私立学校関係者が参加可能となった。
(これはどう働くかわかりません。教育はイデオロギー形成に非常な大きな役割を果たすので5年、10年、20年とたつとこちらの影響が如実に表れるのではないでしょうか)

「経済面」では、全体として柔軟化、自由化

このあたりは右派らしいですね。事業所におけるストライキ権を認めつつ、スト中であっても事業者・労働者が操業する権利を国家が保障すると明言されました。
(ストライキに参加しないほうが個人としては得であるときは参加せず労働組合内の足並みがそろわなくなり、集団としてのまとまりが崩れる→交渉力影響力の低下ということも起こりうりそうです。大きな変更です)

さらに、政府の農地開拓促進機関(Instituto Nacional de Colonización)を利用して新規に入植を行う際の要件が緩和され、貸与された土地に居住することが必須でなくなりました(どこに住んでいててもその土地をつかえるとなると大規模に展開するチャンスでもあり、場合によっては格差が生まれるかもしれません。

緊急法は、強い反応を引き起こしました。野党拡大戦線と労組は、500 条近くにおよぶ長大な法律を性急に成立させたとして制定過程を非難するとともに、政府が緊急法によって「若年者に対する厳罰化」、「公教育の自律性弱体化」、「労働運動の犯罪視」など強権的、新自由主義的改革を推し進めていると強く反発し、法律の約 3 分の 1 を廃止することを求めて国民投票に訴えました。

おわりに

エルサルバドルでは例外措置体制措置を毎月ごとに延長して22月目となります(ここまで続くと例外措置と呼んでいいか微妙です)。逮捕状なしでの容疑者の逮捕・拘束が可能で最近は飲酒運転や危険運転などにも適用されている例が起きています。2月4日に大統領選がありますが、これらがどのような扱いになるかも注目です。
次回記事ではウルグアイの国民投票について触れたいと思います。

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