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居眠り猫と主治医 ⒉初診 連載恋愛小説

することもないので両手で頬杖をつき、彼の事務作業をぼうっと観察する。
しばらくすると、眉間にシワを寄せてこちらへやってきた。
「気にさわったんなら、やめます。もう見ない」

返事をせず、ゆうは無造作に文乃ふみののあごにふれ正面を向かせた。そのまま顔を近づけたかと思うと、文乃の目の下あたりに親指を置く。
「貧血だな」
下まぶたの内側を確認したらしい。

なんの前ぶれもなかったので、心拍数がおかしい。
心臓の音聴かせてくださいねー、とか動物相手にはあんなに穏やかなのに。なんなんだ、この落差は。

「肉もろくに食ってなかったし」
人間に興味はなさそうなのに、観察眼は鋭いというちぐはぐさ。
文乃はメンヘラぎみで周期的に壊れることがある。
明かすつもりはなかったが、すでに見抜かれている気もする。

***

「なんか食う?」
「え?いいです、大丈夫です。食欲ないんで」
しゃべればしゃべるほど、相手の機嫌が悪化していくのが手に取るようにわかった。
しかたがないので、出された野菜ジュースはがんばって全部飲んだ。

逃げるように仮眠室に戻り、毛布にくるまる。
体が限界だったのか文乃は気絶したかのように眠りこみ、始発はおろか開院時間ギリギリまで居座ってしまった。

夜勤開けの夏目祐が、出勤してきた看護師と引き継ぎをしている。
これはまずいと、見つからないように裏口から出た。
泥棒かよ、と文乃は自分にツッコんだ。

(つづく)

*23年7月に公開していた作品です
加筆・修正し、分割して再掲します


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