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フマジメ早朝会議 ㉑恋人の条件 連載恋愛小説

「もう、天国だった。朝香さんのおかげ。ありがと~」
当然のように恭可は正会員になり、次の予約を手帳に書き入れた。
余分にもらったショップカードを貼りつけ、そのまわりはラッキーモチーフを壁紙風にスケッチ。
「今度、色彩検定の問題集貸してもらうんだー」
相変わらず距離詰めが爆速だなと、朝香はあきれ半分・感心半分のようす。

爪がきれいだと、それだけでテンションが上がる。
メイクや洋服とちがって常に視界に入るネイルは、まさに自分のためのオシャレ。ストレスが緩和されると聞いたこともある。

意味もなく光にかざして、うっとり。
プロのほどこしたネイルアートは繊細で、ミクロの芸術品のよう。
色っぽいヌーディカラーに、小粒のパールが輝く。
薬指で思い出したのだが、そもそもかの御仁ごじんは既婚者か否かということ。
べつにどうこうなりたいとかではなく、金銭感覚についても調査せねば。

***

女性陣に恋人の条件を聞いてみた。
朝香は「浮気しないこと」で、苑乃子は「他人も自分も大切にできる人」
やはり、苑乃子は予想のななめ上を突いてくる。

「ギャンブルしなければ、それでいい」
恭可のモットーは、とくに朝香に不評だった。
「ハードルひくっ!世の中のだいたいの男が守備範囲に入るじゃん」
ややこしいのに引っかかるのは、この考えのせいだろうか。
「うーん…でも、これだけは譲れないっていうか」
自分のオヤジという最終形態が、脳裏にこびりついているので。

***

ギャンブル依存症は病気で、脳がさらなる刺激を渇望しているだけ。
完治することはないが、回復させることは可能。
自助グループに参加するようになってから、マシにはなったようだ。
頭ではわかっていても、心が拒絶してしまう。

転校・引っ越しは、たいしたことはなかった。
母の実家に住むことが、あれほど居心地の悪いものだったとは。
弟家族がすでに同居し実権を握っており、出戻りの姉と娘の恭可の居場所はなかった。
あからさまではないものの、お荷物扱いされたのだ。

***

諸悪の根源は、好き勝手に生きてきたオヤジ。
もうひとつの家族に囲まれ、ぬくぬくと過ごしている。
ちょっとくらい苦労しても、自業自得じゃないかと思ってしまう。

そして、こういう思考が悪循環を引き起こしているのではないかと、恭可は自覚していた。
憎むまではいかないが、人を恨むこと。自分をまとう気がよどんでしまう。
闇ではなく、光のほうへ。
恭可が色に惹かれるのは、光へのあこがれが原因なのかもしれなかった。

(つづく)
▷次回、第22話「ギャンブラー疑惑」の巻。


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