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フマジメ早朝会議 最終話 最初で最後の賭け 連載恋愛小説

「今度、数さんちに行きたい」
彼の秘蔵文具コレクションを考えただけで、恭可の鼻息が荒くなる。
「1ミリでも動かしたら、わかるから」「…へい」
脳内を読みきられていた。
「あ。でもクローゼットの洋服はさわってもいい?」「はいはい」
やったね、とガッツポーズ。

「それよりも、恭可の部屋でしずくの大捜索を敢行するほうが先決だと思うけど?」
探し終えたと主張すれど、信用してもらえない。
これは、いったいどういうことだろうか…?

***

本音をぶつけたことで朝香は義理の母と打ちとけ、ふたりでカフェめぐりに忙しいとか。
「団長」ならぬ「社長サン」呼びで皆にからかわれている広大は、「鍛えてくれたらうれしいな」と苑乃子にかわいくおねだり/巧みに誘導され、朝食をきちんととる男子へと変貌。

トモシビ50周年を目指すと決めたマスターは新メニュー開発に燃え、さすがの恭可もここのところ食傷ぎみ。
嫌で嫌でたまらなかったお習字教室の先生に謝罪したいと、数仁かずひさは言う。
子どもの頃に体得した書の技術は、まさに一生ものだったから。

人との出会いに境界線を引くなんて、無意味だったのだ。
大事なのは、条件や都合じゃない。
響きあうなにかがあるか、互いを尊重できるかということ。
これまで、恭可は数えきれないほどのすてきな出会いに恵まれてきた。
そのことに気づけて、ほんとうによかった。

***

「ずっとの更新は年単位にする?」
「半年で」との即答に、「厳しいな」と彼。
「もちろん、数さんにも拒否権あるよ?ガサツさが辛抱ならん…!とか…」
数仁はなにも言わず、目だけで笑う。

更新日がいつになるのか恭可には見当もつかないが、数仁なら例の手帳でそんへんきっちり管理してくれるのだろう。
「なにニヤけてんの?」
「んー?手帳とか万年筆が好きでよかったなって」

母に抱っこされるのも大好きだったが、この腕の中はまた格別の安心感がある。
なんの根拠もないけれど、ゆだねたくなってしまう。
いつ消えるとも変化するともわからない、あいまいなモノ。
目にみえない今の気持ちに賭けてみようか、と恭可はらしくない決断をした。

(おわり)


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