居眠り猫と主治医 ㉑獣医の推し 連載恋愛小説
軽やかに波間を縫い、船を追いかけてくる野生のイルカの群れ。
挨拶をしにきてくれたかと思いきや、船の作り出す波に乗って省エネしたいだけ、という説もあるらしい。
ガイドさんによると、本日イルカたちのご機嫌が麗しいようで、希望者は一緒に泳ぐ許可が下りた。
***
里佳子が何度もまばたきする。
「…え。少年っぽくてかわいくない?」
とうとう彼の真の魅力が公のものになってしまった。
その日、朝から祐は見違えるように表情が明るく、そばにいる人間が感染してわけもなく楽しくなってくるほどだった。
居ても立っても居られない感じで吸い込まれるように海に飛び込み、魚のように悠々と泳ぎまわっている。
軽い身のこなしは、陸上よりも自由そうだ。
***
出会ったのはハシナガイルカという種類で、ふだんは人間が近寄ると逃げることが多いそうだ。
今日は興味津々のようすで、つかず離れず船の周りにステイしていた。
「おおー。あのおにーさん、なんか出てるなあ」
ガイドさんが身を乗り出した。
「イルカを引きつける周波数みたいなの、持ってんじゃないか?」
獣医だと里佳子に聞いて、がぜん祐に興味がわいたようだった。
(つづく)
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