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ハンガーストライキゃっと 822字

僕の猫はこのごろ、反抗的だ。
いつもならうるさいくらいにゃあにゃあしゃべるのに、最近は寡黙な猫を気どっている。
エサだってカリカリに高級猫缶をトッピングしても、ふんふん鼻を近づけるだけで食べようとしない。

それでも、ちゅーるだけは抗えないらしく、かろうじて食している。
しかたがないので、おやつ用ではなく食事用ちゅーるをあらたに買いそろえる始末だ。
三毛猫の機嫌をとっている場合ではないのは、わかっている。
根本的要因をとりのぞかなければ、らちがあかないことも。

***

一緒に暮らしていた彼女が出ていった。
といっても、一時的なものでいわゆる冷却期間だ。
どちらかに好きな人ができたわけではなく、生活時間のズレがなんとなく気持ちのズレにつながった。

そばにいるからと甘えていたせいだと、今ならわかる。
「察してほしい」「言わなくてもわかるだろう」
陥りがちなこの思考を一回とっぱらって、伝える努力をするべきなんだ。

***

にゃんこ禁断症状が出たと言って、彼女がふらりと現れた。
僕はコーヒーを淹れながら、深呼吸をする。
「ふたりとひとりって、2-1じゃないんだよ。物理以上の影響力がある」
「うん。それはわかる」
ゆきは僕の顏を見つめ、ちいさく笑う。
「やっぱり理屈っぽいなあって」
理系VS.文系論議をまたおっぱっじめる気かと身構えたが、彼女の表情はやわらかいまま。

どういうわけか、猫は圧倒的ゆき派なのだ。
「僕がもらってきたよな?たしか」
「名付け親はわたしだもん。みぞれは義理堅くて、かしこいにゃんこだねえ。さすが誇り高きミケちゃんだ」

***

女性同士の連帯というやつなのか。
にゃ、と聞こえないほどの周波数で鳴いて、みぞれはかわいさの演出に余念がない。
我慢していたゴロゴロを解禁し、ゆきの足首にからだをすりつける。

訂正してほしいことがあると、ゆきがあらたまった声で言う。
「ふたりじゃなくて、三人ね」
とりすました顏でゆきの膝の上におさまっているみぞれを、どうしてやろうかと僕は思った。

(おわり)

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