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Re:脚本ユニット 一ノ瀬姉妹 ⒌コンビ解消 630字 全7話

「伊織さ、コンビ解消したい?」
とうとう、伊織を指名して依頼が来た。
プロットや人物像、映像上のこまかい設定に至るまで、伊織はほぼ単独で仕上げることができる。
マネージャーと化してしまった今の自分では、脚本家と名乗るのもおこがましいくらいだった。

絶望してしびれた頭で、もうひとりの一宮純がなりゆきを客観視している。
「…は?断固拒否。純ちゃんがやめるなら、わたしもやめる」
大好きなソフトクリームが溶けるのもかまわず、伊織はそう言いきった。
「つか、なんでそんな話になんの?イヤになった?お守りすんの」
そういう風には考えていないし、むしろ生きがいになりつつある。
「じゃあ、なんで」

***

自分の存在意義がわからないこと。伊織ひとりでも十分やっていける事実。
今まで言えなかったどす黒い感情を、純は祈るように吐き出した。
「わたしのギトギトの毒を、純ちゃんのマイルドな毒で中和して、いいカンジになってんだよ?それに、誰がエグイ台詞作るのさ」

だれかれかまわず毒を吐くのは伊織の専売特許で、自分に毒があるなんて心外だ。
「清瀬伊織がむき出しだと、尻ごみして誰も寄ってこない。仕事にならない」
一ノ瀬姉妹はエッジの効いた作風だとよく言われるが、それはすべて伊織が生み出しているとばかり思っていた。
「あと、恋愛系は書く気しないから。これまでどおり純ちゃん担当で」

ありふれた日常を装って、じわじわと浸食する闇を描ける…?
ガチガチの常識人だと自己評価していたから、純にはそんな認識はまったくなかった。

(つづく)


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