見出し画像

BOOK&BAR Rayカドワキ 2/3 短編小説

「じゃあ、コイツの代わりに飲んで。来月出す新作」と道哉。
朝から試飲をしていたらしく、オーナーの門脇礼は酒を見るのもたくさんといった顔をしている。
おいしい…、と伊吹いぶきの口から素直な感想がこぼれ出た。
「だろ?なのに、いつまでも礼がOK出さないから。いっそ一般の人に決めてもらったほうが早いかもな。下戸が相手だと話進まなくて」
「だから下戸じゃないって。何杯飲んだと思ってんの」

バーの責任者で実質カドワキの店長だという名越道哉が、次々にグラスを運んでくる。
断りきれずに、伊吹は順に飲み干していく。
礼が焦ったようにまばたきする。
「ちょっと待って。度数高いのばっかだよ?中条さん」
ウォッカやテキーラベースのカクテルが多かったらしい。
そういえば、ちょっとばかし刺激がキツめだなあとは思った。

ヤバイ。今さらお酒飲めなくて~、とかわい子ぶれない。
礼と道哉が注視するなか、甘かったりさわやかだったりするアルコールをすこしずつ喉に流しこむ。
動揺するあまり、急に動作がぎこちなくなってしまう。

「なんか…飲んでるだけなのに、どエロイな」
「道哉」
「だって事実だし。礼もそう思ったくせに」
そういうわけで、働く前からあっさり酒豪キャラ認定されてしまったのだった。

***

伊吹にとって、飲み会ほどツライ会合はない。
ひとりまたひとり闘いに敗れていくなか、伊吹ただひとりクリーンにシラフなので、まるで地球人に紛れこんだ異星人のごとく疎外感にさいなまれる。
これって、逆アルハラって言わないのかなあと、ときどき思う。

その日を境に畏敬いけいの念めいたものを持たれ、距離を置かれてしまう。
というのは、伊吹の過剰な被害妄想かもしれないが。
「気に入らない男はつぶせばいいんだから、ラクだよねー。番長は」
今まであだ名といえば番長やら親方やらゴツイ系だったので、あねさんはかわいい寄りで、ほんのりうれしかったりする。

***

アルコール摂取は、水やジュースを飲むのとさほど変わらない。
酔うという感覚になったことがないから、いちどでいいからプハーッてヤツを味わってみたい。
限界をはっきりさせようと日本酒をあおりまくったことがあるのだが、一升いっしょうを越えても一ミリの変化もなく、そら恐ろしくなって途中で断念した。

どうやら、飲んでいるそばから代謝が進み、体内に毒素が残らないようだ。
両親もイケるクチだし親戚も大酒呑みしかいないので、DNAのなせるわざなのだろう。

(つづく)

(つづく)


*23年8月に公開していた作品です
改題・修正し、再掲します

#賑やかし帯 #短編小説 #恋愛小説が好き #私の作品紹介

この記事が参加している募集

私の作品紹介

恋愛小説が好き

最後までお読みくださり、ありがとうございました。 サポートしていただけたら、インプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。