小鳥カフェ トリコヤ ⒍オムライスのトリコ 連載恋愛小説
1か月後、詐欺どころかバイト代が振り込まれた。
佐東創史の所属する事務所経由で。
今まで声をほめられたこともなければ、人前で歌ったこともない。
カラオケを強いられるのも、食い入るように聴かれるのも初めて。
かの子にとって怒涛の展開だ。
***
「かの子さんのオムライスで」
いつもの席に陣取り、彼はスマホを見つめている。
「ウチのスタッフ、全員作れますよ?」
「かの子さんの、オムライス」
厨房に入ると、スタッフの柚葉が肩をぶつけてきた。
「なんすか、店長。オカメインコさんとつきあってんの?」
創史は推しインコにちなんで、そのまんまなあだ名をつけられている。
食事の誘いを断りつづけているせいか、珍しく不機嫌オーラを醸し出している背中。
「な…なんで?」
「ただならぬ空気感って、本人にはわからないもんなのかー」
***
お皿を下げに行くと、その日初めて目が合った。
「そこ座って」と創史。
「仕事中です」
例のコンペに選ばれたという朗報を、渋い表情で発表する。
「よかったですね!おめ…」
「界隈がザワついた」
幻のシークレット歌姫と確実に契約したいから、交渉させろ…?
この人の言い回し、独特なんだよな。
いちど決めたらあきらめそうにない、強情さもにじみ出ている。
ため息まじりに、かの子はつい言ってしまった。
「…わかりました。飽きるまで付き合いますよ」
(つづく)
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