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アイス・サマー・コーヒー/作品によせて

秋が一気に流れ込んできた日に、夏のおはなしを書いた、おたよりの販売をはじめました。ご購入や、詳細はこちらから。

おはなしは3編。それぞれの登場人物は、みな別々の場所で生きていて、どこかで、だれかと、アイスコーヒーを飲んでいます。そしてこの3編は、3年前に書いた物語ともリンクしています。こちらから、読むことが出来ます。

以下には、おおまかなあらすじと、執筆中に浮かんだきもちを書いておこうと思います。あれから3年が経って、登場人物たちはいま、どう過ごしているでしょうか。

  1. 「シティホテル・ニュー」
    ”窓際のアイスキャンデー”に登場した女子高生は、3年が経って大学生になりました。恋人の”こうちゃん”と、夏休みに気ままな旅に出ます。「こうちゃんは、わたしが今まで好きになった男の子とは、まったく似ていない」。そんな彼とともに行き着いた先は、ひどくふるいホテルでした。かつて陸上部の「ヨシノくん」に片思いをしていた主人公は、今、こうちゃんと一緒にホテルの一室で、何を思うでしょうか。蜃気楼みたいな、つかみ所のない、透明で若いふたりの物語です。

  2. 「ギャラリー・サマー」
    ”海辺のかき氷”に登場した少年は、今年の夏も親戚のお姉さん、ようこちゃんに会いにやって来ました。いつも訪れる海の家の近くにはギャラリーがあって、ようこちゃんは海の家とかけもちで働いているのです。ギャラリーには、鳥の絵がたくさん飾ってありました。その絵を観ながら少年は、ようこちゃんに将来の夢をぽそっと語りはじめます。「でもまあとりあえず、それよりボクには夏休みの宿題もあるし、そろそろ中学受験のことも考えなきゃいけないから」。小学生だって、大変なのです。いつもかき氷のシロップを少し多めにかけてくれるようこちゃん。少年はそんなようこちゃんの新たな一面を、見ることにもなります。こどもと大人の狭間で揺れる、小さな夏のお話です。

  3. 「ブルーシェル・ラウンジ」
    ”縁側のカルピス”に登場した主人公は、三年前に実家を出た”お姉ちゃん”と、夏のある日、ピアノコンチェルトのコンサートに行きました。ラフマニノフだかチャイコフスキーだか、わたしにはさっぱりだけれど、お姉ちゃんは詳しいようです。お姉ちゃんは昔から、かしこく美人で、何でも出来るこどもでした。「マリンブルーのワンピースを着こなすお姉ちゃんのことを、実際、いろんな男の人が放っておかなかった」。けれど、わたしは知っている。姉妹だから、分かることがある。姉妹だから、言えないこともある。幼い日の恋心や、きゅうくつな想い。ある日うちにやってきた、飼い猫のこと。これは、家族の物語です。

今年の夏はひどい暑さが続きました。わたし自身、職場の環境に変化があったり、夏バテからいかに逃げ回ろうか、というところで、あまりどこへも行かずに、淡々と毎日を過ごした夏だったなと思います。そんな中で少しずつ書き進めた今作は、まあ、いつものことなのですが、あまり起伏のない、感情もむき出しにはならない、普通の人たちの普通のひと夏を書いたものになりました。けれど、わたしたちの夏の大部分というのはそういう日々だと思います。そしてそれは、過ぎ去ってみてから考えると、いつまでもかがやきを失わない思い出にもなり得るのでしょう。

今年の夏の、最後の最後。燃えさかっていた炎が小さくなり、もう燃え尽きそう、というところ。あんなに暑いのが嫌だったのに、ほんのすこしさびしさが胸をかすめる。そんな夏の終わりに、このお話が寄り添えたら嬉しく思います。よろしければ、どうぞ、手に取ってみてください。よろしくお願いします。

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