金ではなく身体を賭ける賭場を訪れたら……【書下ろし短編 全文公開】6/21発売・嶺里俊介『昭和怪談』より「愛しき我が家へ」
嶺里俊介『昭和怪談』
★全文公開
昭和二十年代 愛しき我が家へ
待ちわびた復員船に乗ることができたというのに、兵たちの表情は一概に安堵したものではない。俵安男がいる船室の男たちは、みな一様に表情が重い。
敗戦の絶望感だけではない。安男は左目の視力の他に、左腕と左脚の膝
から下を失っている。
終戦の報せが入ると、彼らを差し置いて負傷していない者たちが我先にと引き揚げていった。
『お国のため』に身を挺して戦った者が身体を痛めると「お前はもういらない」と放り出される。後