小説:剣・弓・本014「交換条件」
【ライ】
「おはよう! ってか腹減ったなー。あ、もう昼か」
セドさんが入室してきました。ボサボサの髪を掻きむしっています。
「セドさん、安静にしてないと……」
「なあ、ライ、やっぱり採れたての薬草は効くなー。この通りだ」
と言って包帯を引き剥がします。オトスイにつけられた裂傷の跡こそ残っているものの、出血はもうありません。確かに乾燥薬草よりは効能がありますが、それにしてもおかしいです。昨日あんなにまで血を流していたのに。この人の肉体は、回復力はやっぱり普通じゃないですよ。
上体が露わです。極限まで引き締まっており、それでいて程よく筋肉がついています。ネネさんが顔を背けます。
「あっ、わりぃわりぃ」といつもの革製の服を身につけ、ネネさんの隣に腰掛けます。
「で、何で俺が帝国にいるかって話だったよな?」
「え、聞いていたのですか? 盗み聴きは美しくないですね」と長い髪に手櫛を入れながらナスノさんが言います。
「ただ聞こえてきただけだ。何も盗んでねぇよ。
で、帝国にいるのは単純な話だ。
カネがいいからだよ。俺は剣の腕だけで生きてる。死と隣り合わせの傭兵稼業だ。それならなるべく金払いのいいところで雇われたい。ただそれだけのことだ」
「うーむ。何だか違和感がありますね」ナスノさんが訝ります。
「ライはどう思います?」
セドさんの言っていることに嘘はなさそうです。しかし何か、まだ言っていないことがある、明かしていないことが残っているような。そんなことを考えつつ、それを踏まえ僕はこんな風に切り出しました。
「ではどうしてそんなにお金がいるんですかね?」
「ははっ。さすがはライだ。そりゃまあそう思うよな。
さて、ここからは交換条件といこうか。あんたら、俺に隠してることがあるよな。まぁ、だいたい察しはついてるんだが。それも含め腹割って語り合うってのはどうだ?」
「……そうですね。そろそろいい頃かと」
そうナスノさんは言いながら、長い脚を組み替えます。
「結論から言うぜ。
なあナスノ、お前、弓引いてないな」
(つづく)
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