メディアは「トランスジェンダー」と性同一性障害を混同させて報道するな

2023年(令和5年)11月24日
性同一性障害特例法を守る会

私たち「性同一性障害特例法を守る会」は、性同一性障害当事者による団体です。まさに当事者として、このところの最高裁判決などの報道で見られる「トランスジェンダー」と私たち性同一性障害とを混同させて報道する、メディアの姿勢について、私たちは強く抗議します。

10月25日の最高裁判決の朝日新聞デジタルの報道は次のようなものです。

トランスジェンダーが戸籍上の性別を変えるのに、生殖能力を失わせる手術を必要とする「性同一性障害特例法」の要件が、憲法に違反するかが問われた家事審判で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は25日、要件は「違憲」とする決定を出した。

https://www.asahi.com/articles/ASRBP7T8YRBNUTIL009.html

これが報道各社による典型的な書き方です。しかし当事者としては、

特例法は「性同一性障害当事者のための法律」なのに、なぜ「トランスジェンダー」の問題として取り上げるのか?

という疑問を持たざるを得ないのです。この裁判での原告は「性同一性障害」の診断を受けています。この診断と「性器手術をしたくない」という個人的な希望との間での、法の前提の食い違いについての最高裁の判断であるのです。それをなぜか「トランスジェンダー」の問題として、マスコミ各社は報道しようとするのです。

「トランスジェンダー」には、広い意味での「性別移行者」という程度の意味しかありません。女装趣味の方やゲイの娯楽として一時的に女装してショーをするドラァグクイーン、「男女の社会的な役割に違和感を持ち、それにとらわれずに生きたい」と考える方も含む、あいまいで広い範囲を大雑把にくくる概念でしかないのです。

実のところ、私たち性同一性障害の当事者も大きなカテゴリとしては「トランスジェンダー」には含まれもするのですが、「トランスジェンダー」の中で性同一性障害の診断がある人は15.8%に過ぎません。*1「トランスジェンダー」の大多数は「性同一性障害」ではない、女装趣味や自分のジェンダーに不満を持つ人であり、積極的な医療を求めない「生き方」の人々なのです。

私たち性同一性障害当事者が「トランスジェンダー」と一緒にされたくないのには、理由があります。私たちは「性別移行の医療」を求める人々です。ですので「性別移行の医療」がより充実し安全で後悔もない医療を受けることに重要な利害と関心を持っているのです。「トランスジェンダー」の大部分は医療を求めない(だから当然手術をしたくない)人たちですから、性別移行の医療が条件になることをそもそも嫌う傾向があります。

まさに私たち性同一性障害当事者とは、医療を巡って「トランスジェンダー」とは利害が対立するのです。性同一性障害特例法とは、私たち性同一性障害当事者のための法律でした。この法律は私たちの利害と医療を直結するものとして制定されたのですが、いつの間にか「トランスジェンダー」のための法律にすり変えられようとしています。

性同一性障害当事者である私たちは、これにまったく納得していません。性同一性障害当事者の間でも、意見は実に多様なのです。LGBT活動家と一緒に「トランスジェンダー」を名乗りたい当事者もいますが、手術をして戸籍を変えて社会に埋没する当事者は、現行の特例法に感謝し手術要件が当然必要だとする意見も多いのです。
 当会も参加する「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」で集めた署名【最高裁判所に、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の「性別適合手術の要件」につき違憲判決を下さないよう求める】(https://voice.charity/events/534)にも、違憲判決に反対する当事者の声が数多く寄せられています*2。

私たち性同一性障害当事者の意見をなぜマスコミは無視するのでしょうか?

私たち手術をして戸籍を変えた人たちはすでに1万人を超えていますが、その人の意見はまったく調査もされていなければ、マスコミに取り上げられることもなく、「手術がしたくない」人たちの意見だけがマスコミに取り上げられているのです。法律を変えようとするのに、その法律に今まで守られてきた私たちの意見は大事ではないとマスコミは考えているのでしょうか?

これはおかしなことではありませんか?

マスコミのこの問題の取り上げ方は明らかに不公正です。私たちには「トランスジェンダー」とは異なる利害があるのです。ですから、私たち性同一性障害当事者の間では、「トランスジェンダー」と呼ばれること自体をもはや拒絶しようとする動きもあります。

特例法を性同一性障害当事者から奪い、「トランスジェンダー」のものにしようとする、人権を隠れ蓑とした人たちに、私たち性同一性障害当事者は怒っていますが、マスコミはその共犯者となっているのです。

最高裁で手術要件の違憲判決が出てしまいましたが、そうなれば「性同一性障害の診断」というものの意味がまさに重大になってきます。現状で「一日診断」と呼ばれるモラルを欠いた医師による診断が横行しているという、当事者の間で広く知られる事実があります*3。ならばまさに安易な医療による健康被害を「自己責任」として免責し、また面白半分な性犯罪者による勝手な利用などもすでに耳にする状況*4でもあります。

これらは「性同一性障害」と「トランスジェンダー」とを同一視することから起きている現象でもあるのです。このような異常な状況をマスコミが助長するようなことは厳に戒められるべきであると、当事者として改めて訴えます。

マスコミ各社は性同一性障害の問題について、「トランスジェンダー」との間の区別に留意し、公平な報道をお願いいたします。これは「国民の知る権利」の問題なのです。

*1 「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」105ページ
https://t.co/uxU46b752k

https://www.mhlw.go.jp/content/000625160.pdf

*2 「最高裁判所にあっては、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の「性別適合手術の要件」につき違憲判決を下さないよう求め、各政党にあっては、この要件を外す法案を提出しないように求めます。」

「私は手術を実費でしてやっと性別変更をして女性になりました。長く苦しかった日々に終止符をうつことができたあの日の喜びは忘れられません。 手術なしでの性別変更はありえないことだと思います。 断固拒否します!(2023/10/19)」
「僕はFTMですが、同じ当事者として、男性器のある女性が法律的に認められることには反対です このような法律が認められないように微力ですが協力したいと思います(2023/10/18)」
「私は性同一性障害であり、性自認は女性です。正直、違憲にするより性転換手術費用の補償等に手を回して頂きたいと思っています。そちらの方が社会的にも個人的にもwin-winであり、皆さんが安心して暮らせる社会があると思います。(2023/10/14)」
など多数の性同一性障害当事者の声が寄せられています。

*3「性同一性障害の即日診断の実態と、当会会員による即日診断の陳述書」

*4「振り袖に“墨汁” 被告の男が起訴内容認める 弁護側「性同一性障害で晴れ着に強い憧れ」 福岡地裁支部」

「「心は女なのになぜ女湯に入ってはいけないのか」逮捕された女装男性(43)は今年4月にも浜松市内の女湯に入り逮捕の過去…地元ではドスのきいた大声で近隣トラブルも…〈桑名・女湯侵入事件〉」


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