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ゆっくり生きる

先日3才の娘に上から
「遊んでないで早く歯を磨きなさい!」
と怒鳴ったことがあった。
仕事に家事に育児に慌ただしい毎日の中で
昔からの趣味だったギターもサイクリングもやらなくなった。
とにかく時間がない時間がないと言いながら過ごしていた。
ある日、中途半端に空いた時間があったのでこれといった目的もなく偶然的に近所の中央図書館に立ち寄った。勘で選んだ小説を手に窓際の
椅子に座る。木漏れ日が射し込み、久しく忘れていた静かな空間がこの上なく心地よく時間の流れがやたらとゆっくりに感じられた。
読書に夢中になり、ひと段落したところでハッとした。

私は何か大切なものを取りこぼしながら
        生きているのではないか?

後日、歯磨きの時にしゃがんで娘と目線を同じにしてニコニコしていると
「お母さんがアンパンマンの歯ブラシにしてくれたんだ」
という話をしてくれた。だから嬉しくて歯ブラシを見たり歌ったりして
しまうのだと言ってその小さな手から新しい歯ブラシを見せてくれた。
私はそこで初めて歯ブラシが変わっていることに気がついて情けなくなった。
「アンパンマンよかったね」
と私が言うと、少しはにかむ様ににっこりと笑ってみせた。私にとってはこういう瞬間を拾っていける生き方ができれば本当に幸せな人生だと思う。この子が新しい歯ブラシに喜んでいることにも気づかないほど何を急いでいたのだろう。
時間は十分にあったのだ。
以来、よく読書をするようになり図書館は私の生活になくてはならない。
子供達の成長にじっくり向き合いながら、本を読みながら
私はゆっくり、ゆっくり生きていこうと思う。

(第2回 たはら言の葉コンクール大賞受賞作)

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