見出し画像

「ひらいて」に込めるいのり

「いつも泣きたい気持ちがそばにあるのに涙は出ない。
折り合いをつけなければ、現実と欲望の折り合いを。
果てない夢に想いを馳せれば、時間だけがただすぎてゆく。」

綿谷りさ/『ひらいて』/新潮文庫/p175

 この本が原作の映画を観たくて、でも逃してしまって本だけでもと借りた。

「ひらいて」という言葉は彼女の祈りのように私は思えた。「こころをひらく」という言葉が真っ先に思い浮かんだ。誰かにこころ開くって難しくて、開いてもらうのも難しくって、上手くいかなくて。特に引用したこの言葉は、痛々しくて、でも痛々しいくらいにわかって、でもわかることではどうにもならなくて、私を魅了した。泣きたいんだけど涙が出なくてずっと泣きたいくらいの気持ちが喉に詰まって窒息死しそうなくらい苦しくなる。それを堰き止めている何かがあるから。止めている“なにか”を外そうなんて思わなくて、堪えた涙の水量分を無くすために、物事を俯瞰しようとする。

私はどうにもこの危うい年齢とでも強い芯を持った少女が大好きなんだな。

文庫版の光浦靖子さんの寄稿文も素敵なので読んで欲しいです。「そうそう!そうなの!」と叫びながら読めます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?