ドイツ人の親友Mr.Jとの思い出 3 / 老後のために今を生きるか それとも 今のために今を生きるか? マウルタッシェン(ドイツ風 水餃子?)

今は知らないが、この当時、欧州にはボーナスというものがなかった。また給与も、日本のプロ野球選手の様に年俸制だった。
1年の実績を踏まえ、経営者側と来年度の年俸交渉をする。提示された金額に不満な場合は、退職する
人もいる。また、違う会社の年俸の方が良い場合は
簡単に勤める会社を変えてしまう。勿論、日本の様な終身雇用という概念はなかった。
Jは、他社から引き抜かれたので、金額は知らないが、かなり良い年俸を約束されたことになる。

オフィスに入る前、Jは車に忘れ物をしたから取りに行くと言った。
Jの車はセダンの凄いBMWだった。社内は総革張りシートだった。

「この車に乗って営業に行くからな。禁煙車ではないから安心しろ。」
「この車のなかで本当に煙草を吸ってもいいのか?」
「俺も吸うから問題ない。しかも同じマルボロだ。」
「この車、いくらしたんだ?」
「12万マルクだったと思う。」

この頃は、まだユーロではなかった。ヨーロッパの各国通過の時代だった。1ドイツマルクは75円位だったから、Jの車は日本円で約900万円ということになる。

「J、凄いな、こんな高い車を買えるなんて。」
「俺が買ったんじゃない。会社が買ってくれたんだどの車がいいか聞かれたから、この車がいいと言ったんだ。そうしたら、買ってくれた。」
「ホントか?」

ドイツ支社はJにかなり期待しているんだと思った
午後のミーティングは、これからJと営業に行く
お客様の説明だった。
3時にJのアシスタントのクリスティーナさんが
珈琲とクッキーを持って来てくれた。

「ユウキ スズハラです。宜しくお願いします。」
「クリスティーナと呼んでいいわ。こちらこそ宜しくね。ユウキ。」

Jと珈琲を飲みながら雑談をした。
Jは甘い物は嫌いだと言って、自分のクッキーを
全部僕にくれた。

「お前の車はトヨタか?」
「そうだ。カリーナEDという車だ。」
「どうして車の名前がイタリア語なんだ?」
「イタリア語?」
「お前は自分が乗っている車の名前の意味も知らないのか、カリーナはイタリア語で英語に訳すと、
プリティーだ。それより、この間初めて知ったが
日本では夏と冬にボーナスという特別給与が支給されるんだってな。お前、ボーナスは何に使ってるんだ?」
「旅行に行ったり、欲しい物を買って、あとは貯金してる。」
「貯金?何のために?」
「いざというときのためにと老後のために。」
「老後?お前、今、いくつだ?」
「27歳だ。」
「お前、後50年も先のために貯金してどうする?
老後なんてものは、50歳になってから考えればいい。老後のために今を生きていたら後で後悔するぞ。60過ぎて、チョモランマの頂上に登るなんて無理だ。ポルシェに乗ったところで、何処かにぶつけるのがオチだ。大恋愛なんてもっと無理だ。
そもそも、老後のために生きていて、老後になる前に死んだら、後悔してもしきれないぞ。
ユウキ、今のために今を生きろ。50まで老後なんて考えるな。稼いだ金で、やりたいことを全部やれ行きたいところは全部行け、そして大恋愛しろ。
そのためのボーナスだ。分かったな。」
「分かった。」
「ユウキ、今日のディナーはクリスティーナも参加する。男だけじゃなくて、ドイツ人の女の人とも接しておけ。」
「分かった。」

Jとレストランに着くと、クリスティーナさんは
既に来て待っていた。
「ユウキ、マウルタッシェンを食べてみない?」  
「マウルタッシェン?」
「巨大なラビオリみたいなものだ。」 
「ラビオリとは違うわ、J。ここシュツットガルトのあるシュヴァーベン地方の郷土料理なの。」
「食べてみます。」

クリスティーナさんと僕にマウルタッシェンがJには肉料理が運ばれて来た。
「Jは野菜を全然食べないのよ。」
「ビタミンを摂らなくていいのか?J。」
「ちゃんとワインを飲んでる。」

マウルタッシェンはJの言った様に巨大なラビオリ形の物が2つ透明っぽいスープに入っていた。
ナイフで切ると中にほうれん草と挽肉が入っていた
あっさり塩味で美味しいと思った。
ドイツ風水餃子という感じかな、と思った。

「ユウキはドイツ以外のどの国に行ってみたい?」
「イギリスです。」
「どうしてイギリスに行きたいの?」
「ビートルズの国だから。」
「よかったわね、J。 Jもビートルズが好きなのよ。」
「お前、ビートルズを聴くのか。」
「ビートルズのメンバーで誰が1番好きなの?」
「ポール マッカートニー。」
「ビートルズと言えばジョンレノンだ。」
「ポールマッカートニーの方がヒット曲も名曲も多い。」
「だが、歌詞はジョンレノンの比ではない。
ジョンレノンは天才ロック詩人だ。」
「よかったわね。共通の話題が出来て。」

僕はJとクリスティーナに日本からのお土産を渡した。僕は木曽の伝統工芸品のお六櫛をお土産に持って来ていた。
ふたりとも開けてもいいか、と言ったのでOKだと
答えた。

「日本人は木で櫛を作るのか、・・・ ユウキ、これは日本の職人の手作りか!?」
「そうだ。」
「素晴らしい、見事だ。ドイツにこんな凄い技術を持った職人はいない。」
「どうしたら、これを手で作れるの?」
「ユウキ、いい物を貰った、ありがとう。」
「私もよ、ユウキ、ありがとう。」

クリスティーナさんと別れた後、Jがホテルまで
送ってくれた。

「ユウキ、明日の朝8時にホテルに迎えに来る。
ロビーで待っていてくれ。」
「分かった。ありがとう、J。また明日。」
「おお、また明日な。」

僕はJと本当の友達になろうと思った。 
それは会社のためではなく、僕個人の意志だった。









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