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こんな北朝鮮に注目! ドルが一番

金正恩氏は、核やミサイルの科学者に特別に優遇した待遇を施している。賛辞だけでなく、彼らのための科学者通りを造成し、広い間取りの高層マンションや家電製品も贈呈している。そして、そのたびにマンションの空き地に家庭菜園を作って引き渡すよう指示を出しているという。金正恩氏は2015年10月に、衛星科学者住宅地区を訪問した時も、住宅地区に科学者たちのために家庭菜園を造成し、彼らが白菜や大根をはじめ、野菜を栽培しているのを見て喜んでいた。

普通30〜50坪程度の規模である家庭菜園は個人が栽培して収穫できる畑だが、サイドビジネス用という意味が大きい。家庭菜園で出来た作物を売ってお金を稼げるという点で、人気を集めているからだ。最高指導者が最先端の科学者に家庭菜園で野菜を栽培できるように配慮する状況は、北朝鮮経済の現実をうかがわせる。家庭菜園の作物を売る場所がチャンマダン。「場・庭」を意味する北朝鮮の闇市のようなものだ。チャンマダンは金正恩氏が黙認し、全国に広がった。

アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の米韓研究所の分析によると、北朝鮮のチャンマダンは、2016年に436ヵ所把握されたが、これは前年に比べて40ヵ所も増加した。路地市場、夜市など小規模な非公式市場まで含めれば、その数は800ヵ所以上に上るとされる。

政権樹立初期の北朝鮮は三日市や五日市のような昔のスタイルのチャンマダンがあったが、1958年8月に個人商業を廃止し、国営流通や協同商業が整備され、全て閉鎖された。ただ、住民が必要とする商品が十分になく、1964年に農民市場の形でチャンマダンが運営された。ソ連の崩壊などで経済が厳しくなり、1990年代に入ってチャンマダンへの依存度は大きくなった。

チャンマダンでは、生活必需品と、他の人に自分の富を誇示することができるアイテムが人気だ。ある脱北者によると、昨年、北朝鮮のチャンマダンでは薄型テレビや盗難防止用の警報機やミニスカートなどが売れ筋だったという。韓国映画・ドラマを簡単に見られる装置である「ノートテル(EVDと呼ばれる光ディスクのプレーヤー)」も中国から密輸入され、取り引きされている。ノートテルはテレビ、DVD、USB、SDカードなどを利用して映像を視聴でき、EVDプレーヤーという装置を利用すれば中国のテレビの視聴も可能だ。アンテナさえ調達すれば韓国のテレビも視聴できるという。中国製で価格は3000~6000円という。

若者を中心にミネラルウォーターを飲む人々も増えており、1本130円の高価格でも物がなくて売り切れ状態だそうだ。中国産ミネラルウォーターのペットボトルを持って街を歩くことを富の象徴やトレンドと感じる風潮も現れている。

そのチャンマダンで最も優遇される通貨は、アメリカのドルである。いわゆる「ドル化(dollarization)」と呼ばれる北朝鮮経済のドル中心の取り引きは徐々に深く浸透しつつある。一時、北朝鮮当局が、市場からドルを排除しようと平壌などで外貨に対応する商店や、外国人を相手にする店でユーロ決済だけに限定させようとしたが、ドルの流通を防ぐことはできなかった。中国の人民元も力はそこまで強くはない。逆に、北朝鮮の貨幣はほとんど排除される状態となっている。チャンマダンで金日成の肖像画が刻まれた北朝鮮の紙幣は「プクデギ(草や藁などが絡まった塊」と呼ばれる。外国紙幣に比べ、価値の低い北朝鮮紙幣は、テレビ一台買う際も、包みいっぱい必要になるため敬遠されるそうだ。

浴場の料金もドルで払うのがスマートなスタイル。北朝鮮の保養施設や地方の浴場でも料金を外貨で受け取っている。新義州(シニジュ)と咸興(ハムフン)、 平城(ピョンソン)などの市街にある、北朝鮮の保養施設、蒼光園(チャングァンウォン)では、ドルと人民元、北朝鮮のウォンという3種類の通貨に対応している。利用者は、北朝鮮のウォンにすると料金分の紙幣がかさばるため、ドルで持っていくことが多いようだ。一人が蒼光園で散髪や入浴などをするのには、約5ドルかかるが、人々は、北朝鮮のウォンをそのまま持っていくのではなく、市場や商人たちのところで外貨に両替して浴場に行くという。市場の商人は、米ドルで1000ドル程度は予備でいつも保管しているという。

北朝鮮では「ロドンダン(労働党)よりチャンマダン(市場)」という言葉がひそかにささやかれている。朝鮮労働党は国民の生活を見捨てたが、チャンマダンは生活を楽にさせてくれるという意味だ。国民の間には、「アメリカのおじさん(100ドル紙幣に描かれたベンジャミン・フランクリン)が一番力があり、中国のおじさん(100元に描かれた毛沢東が次。首領様(北朝鮮貨幣の金日成を指す)が一番最後」という言葉がまかり通っている。

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