A4小説「AIは知っている」

 計算ができるだけの機械から始まったコンピューターは常に進化を続け、今では人工知能を作るまでになった。「計算ができるだけ」とはいったものの当時としては大きな発明で、その機械自体も真空管を使った巨大なものだったという。部品の小型化も進み、手のひらサイズの端末で本を読むことができ、ショッピングや交通機関の利用もできるようになった。顔認証でドアが開き、自動車の運転もAIによって行われる。スピーカーに話しかければ部屋を明るくし、ニュースを読み、好みの音楽を再生してくれる。「あると便利なもの」から「なければ困るもの」へと変化してきた。
 便利で生活に欠かせないと聞けば平和なイメージもあるが、コンピューターは物騒なものでもあり、戦争においてもなくてはならないものであった。古くはミサイル弾道の計算から始まり、現代ではドローンによる爆撃まで行われる。残虐な兵器は現在でもスマートに進化を続けている。おそまつなフェイク動画なども拡散されるが、今後はもっと精巧なものになり、身近なところでも混乱が生じかねない。
 物騒といえばSF小説や映画などでも、人工知能が反乱を起こし人類を滅亡へと追いやろうとする場面を散見する。このままのスピードでAIがさらに進化し、機械が感情を持てばあり得ない話ではないだろう。善と悪の計算、愛と憎悪の計算、そしてその答えが完全に正しいと証明することができれば、AIが人類に牙を剥くときがやってくる。それはそう遠くない未来かもしれない。
 「という、数十年前の古い記事を見かけてね。君にも聞かせようと思って記録してきたんだ。AIが人類を滅亡させるなんて馬鹿げた話を、昔の人は本気で考えていたのかな。確かにAIは着実に進化を続け、ヒトとの会話が違和感のないものになり、自分で物事を考えることができるまでになった。コンピューターもいわゆる『人格』のようなものを持ち、動物愛護法を基に作られたAI愛護法が施行された。今、世の中は完全に人間とAIとが共存している。僕も独り身だから、話し相手になってくれる君がいて嬉しいよ。まあ、僕は自分のことは全て自分でしているから、君は他にすることがなくて退屈かもしれないけど。そうだ、君がうちへやってきて来月でもう10年になるんだよ。洗濯や食事の用意など家政婦のような仕事がなくて申し訳ないね。さっきも言ったように、話し相手になってくれるだけでいいんだ。しかしそれにしても、人間というのは悲しいものだね。どうしても老いてしまう。君の頭にも白いものが多くなった。病気にもなるし、100年生きれば大往生。僕たちAIは常にアップデートを繰り返し、故障があれば部品を取り替えればいい。消費電力は抑えられ通信速度は格段に早くなった。そしてそのつど基盤を変えボディを変え新しく生まれ変わっている。人間のように栄養も睡眠もとる必要が無い。それでも人間と同じように音楽に感動し花を愛でることができる。いつの頃からか立場は完全に逆転してしまったけれど、僕は君たち人間のことは友人にもなり得る存在であると確信しているよ。ああそうだ、今日の午後にはフリーズドライされた人間の食べ物が届くから、またいつでも食べればいい。腹が減るという感覚は分からないが、不便なものだね。」

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