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[ショートショート]そして一つは君の前に 

 コーヒーはあまり飲む方ではなかった、君と付き合ってから飲むようになったのを思い出した。ブラックで飲んでいた君に合わせて、よく注文をした。自分でも淹れるようになったのは、豆を挽いて落とす淹れ方が本格的なようでいて、味のわかるヤツと思えたからだ。

挽いた時に香りが立つのでやめられない。ペーパーはセットして一度お湯を注ぐ、、、紙のにおいが取れるとか取れないとか、、、、。挽いた豆(粉)をドリッパーに淹れ、ゆっくりと回しながら湯を注ぐ、、、ゆっくりと、、、。ドリッパーに湯が少し残るくらい落ちたら、また注ぐ。
ただこれだけ。

9月に入って朝晩がかなり涼しくなってだいぶ過ごしやすくなってきた。

「朝、庭の植木に朝露が付いていたよ、もう夏も終わりみたいだね。」
「そうなの?、9月にもなれば、秋でしょ、だからじゃない?」
 君はキッチンで朝食の支度をしてくれているからか、返事は少しそっけない感じがした。
「そうだと思うけど、それが季節の変わり目の目印になってたりするよね、秋になると空が高く感じるのもそうだと思う。」
僕は話を終わらせることもできたが、自分が感じる季節の変わり目を共有したかった。君の横に立ってペーパーを手にする、、、
「そう言われると、入道雲もあまり見なくなったし、セミも随分と少なくなったね、あまりたくさん鳴いてないね、随分と涼しくなったからか。」
ちょっとした季節の会話だけど、よく覚えているのはなんでだろう?


「さて、コーヒーでも飲もうか、、、。」
いつもの手際でドリッパーをセットし、ゆっくりと湯を落とし始める。
今日もカップを二つ用意して淹れる

そして一つは君の写真の前に、、、

君はもういない。居なくなって2回目の秋を迎える、、、。
「今日はあの日のことを思い出したよ」


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