ミズイシ

名前変えました。小説を投稿していきます。

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小説『救ってください、龍宮さん』第一話 終

 青々と茂る葉桜を、初夏の兆しをほんのり含んだ太陽が照らす。その下を紺色の制服を着た学生達が各々のスピードで歩いている。  戸松麗易は周りから投擲される羨望、嫉妬、好奇などを鋳溶かした視線の手裏剣に若干辟易しながらも、極めて無表情を装っていた。彼が的にされている理由は単純。見目麗しい女子生徒二人が彼を巡って小さな火花を起こしていたからだった。  一人は同じ二年二組のクラスメート、龍宮仁美。もう一人は先週から正式に揚羽学園に転校してきた圓浄真菰だった。 「真菰さん、麗易は私の恋

    • 小説『救ってください、龍宮さん』第一話⑨

       第一地区に向かう車内は夜の闇に支配され、搭乗者全員に暗い影を落としていた。龍宮仁美は戸松麗易から聞かされた衝撃的な話の数々を少しずつ咀嚼しようと努力していた。 「真菰さんが失踪!?えっ、なんで!?」 「それが、分からないんだ。病院から出た所は防犯カメラにも映っていたらしいんだが、そこからが不明なんだ」  麗易にもどことなく、焦りが見える気がする。仁美にとって真菰は麗易を意中の相手とするライバルではあるが、同時に尊敬の念を抱く友人でもある。だから、彼女の身を案じるのは当然だっ

      • 小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ⑧

         ただひたすら、キーボードに指を滑らせる。圓浄真菰は今、とあるデータの復旧作業に勤しんでいた。昨夜、幽冥界へと落とされた憐れな裏切者、赤荻健介が披露した第四部隊襲撃の瞬間を収めた映像である。  謎の魔女から襲撃を受けた小清水翔也を初めとした第四部隊の生き残り達を見舞った後、仙台の拠点に戻ってきた真菰を出迎えたのはもぬけの殻になったアジトだった。御巫鶴露が残していったメモをよく頭に叩き込んだ真菰は然るべき準備を行ない、今に至る。  このキーボードが鍵盤であったなら、きっと世にも

        • 小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ⑦

           活きの良い陽光がビルや商店街の間を飛び交っている。戸松麗易は貞能町から移った仙台のアジトから杜の都の日常を見下ろしていた。  昨夜起きた貞能町での一件は既に県内のみならず、全国ニュースになっていた。日本人なら大半がその名を知る佐野コーポレーションの企業城下町で謎の火災が発生したのだからそれも当然だった。無論、陰陽寮の手回しにより、その核心となる詳細や原因について、メディアでは一切触れられる事は無かった。  その渦中にいた麗易は火事場をくぐり抜け、更にかつて戸松邸で命を削り合

        小説『救ってください、龍宮さん』第一話 終

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ⑥

           濃い紫が敷き詰められた夜空を見つめ、そっとカーテンを閉める。陽光は空より退去して既に久しいようだ。  北條三和はベッドから身体を滑らせ、木の床に足をつけた。想像よりも冷たい感覚が身体を上ってきて、ぴくっ、と肩を震わせた。  今朝の衝撃的な緊急集会で意識を失った後、母親に支えられる形で病院を後にしたのは何となく記憶に残っている。そこから今までずっと、眠り姫状態にあったようだ。  ふと、視界の端に映った棚の上の写真を手に取る。去年、軽音楽部のセッションを視察しに来た遊佐実咲と撮

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ⑥

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ⑤

           昼間利用した地下駐車場に再び車を停め、戸松麗易と周防豪気は佐野コーポレーションから徒歩五分ほどの赤荻の会社が入るビルに乗り込んだ。  受付に睨まれたものの、赤荻健介には事前にアポを取った、と豪気が嘘を吐いて関門を突破した。  金銀の装飾を不必要に散りばめたエレベーターで最上階まで辿り着いた麗易達は待ち構えていた名も知らぬ第六部隊員に案内され、特別応接室というネームプレートの貼り付けられた部屋に通された。  ノックの後に返ってきた少女の声に混じる棘に豪気が顔をしかめる。それを

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ⑤

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ④

           鮨詰め状態で走る車を横目で見やりながら、黒色のセダンは高速道路の隣にある専用点検路と看板の立つ小道に入った。  この道は基本、一般人の乗り入れが許されておらず、政財官界の大物や魔術師の上位層などに利用が限られている。目的は専ら、人目(主にマスコミや諜報員など)を避けたり、渋滞の回避などである。 「御嬢様、あと二時間ほどで仙台に着きます」 「うん、分かった」  鼈甲製の櫛で銀の髪を撫でつける少女、御巫鶴露もそんなVIP道路を使うに足る名家の令嬢だ。久須美家や赤荻家より規模は小

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ④

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ③

           小さなタイマーの音が十五メートル四方の部屋に響き渡る。朝日もまだ産声を上げていない午前四時から戸松麗易は日課であるトレーニングを開始していた。一般人の触れ得ぬ魔術を用いて戦う魔術師と雖も、こういった基礎的な身体作りは欠かせないのだ。  最後のセットに差し掛かった麗易は腕立て伏せの姿勢から親指と人差し指だけで倒立し、中空に飛んで軽やかに着地した。 「………妙な夢を見たな」  麻の手拭いで滴る汗を拭きながら、昨日見た夢を考察してみる。別に夢占いを趣味としている訳では無いのだが、

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ③

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ②

          「―――最後に。遊佐生徒会長ですが、今もまだ見つかっていません。皆さんも、夜間の外出などは控え、怪しい人とはSNS上であっても関わりを持たないように。それでは、これでホームルームを終わりにします。さようなら」  二年二組の担任、友利綾子の話が終わるなり、席を立った龍宮仁美は昼の件で注意をするべく麗易の元に近寄ろうとした。しかし、仁美がリュックサックに教科書を詰め込み、急いで彼の方へと振り返った時にはもう霞となって消えていた。 「は、はあっ!?もう消えてるとか………」  忍者み

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ②

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ①

           また見られてる。  親友達との談笑に興じていた龍宮仁美は視線の主を軽く一瞥すると、即座に会話の輪へ戻った。 「どーしたの、仁美。ちょっと怖い顔になってるぞ」  トーク仲間、扇谷沙智がショートヘアを僅かに傾け、質問をしてきた。 「ん、ああ、えっと何でもないよ。それで、レヴィの何のケーキがイチオシなんだっけ、三和」  沙智の柔らかな髪を崩さないように撫でながら、輪を形成していたもう一人の友人、北條三和に世間話の続きを所望した。 「あー、そうそう。レヴィのザッハトルテがめっちゃ人

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 ①

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 プロローグ

           熱い光が肌を無遠慮に撫でまわす。その大本は天上に御座す日輪だ。  噎せかえるような海水の臭いで歪めた顔を祖母に向け、 (これから、どこに行くの?)  尋ねたわたしを見た祖母は袖で目元を拭い、仮面の笑顔で答えをくれた。 『海の底に、綺麗な宮殿があるのよ。そこが今から向かう場所』  水は多くの面を使い分ける。世に溢れる人間みたいに。  去りしあの日に望んだ海とは異なる、青黒い化物が手薬煉引いて待ち構えている。 (最期に……………『あの人』に会いたかった、な)  わたしの呟きは潮

          小説『救ってください、龍宮さん』第一話 プロローグ

          自己紹介

          皆様、初めまして。ミズイシと申します。 これからここ「note」で小説を投稿していこうと考えています。ジャンルは決めないでおきます。 小説を書き始めたのは高校生の時分で、きっかけは本を色々読んでいる内に自分も何か書いてみたくなったという非常にありきたりな理由になります。 投稿は不定期になりますが、宜しくお願い致します。