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超短編小説「仲立ち天使」

お題:来年の喪失


仲立ち天使


時がたつのはなんとも早いものだ。何も成しえないまま、年末になってしまった。
年明けには高らかに目標を掲げるのに、折り返しの月になってもダラダラしている自分に気づき、そうして今、気が付けば11月が終わろうとしている。クリスマスの曲なんか流れちゃう街並み。俺は怠惰な自分と現実を受け止められないまま、ぼうっと当てもなく外をうろついている。

「さみぃ……」
ほうっと息を吐けば空気が白く濁る。何の気なしに口に出た自分の独り言にまた気分が落ち込む。ああそうだ、すっかり冬になっちまった。さっきまで馬鹿みてえに暑かったのにいつのまにか季節が変わってやがる。油断した。来年まであと数十日しかねえんだな。

このまま仕事をさぼっているわけにいくまい。俺の業務が滞ればことだ。なにせ来年が来なくなっちまう。俺は胸ポケットから手書きのメモを取り出して、自分が年末までに終わらせる業務のリストを見返した。


・得意先へのあいさつ回り
・大みそかの年末警備体制強化の依頼
・サンタクロースから日本の神々への業務バトンタッチ式典の手配
・来年の初もうでに向けて、眠っている神々を起こす儀式の手配


……こんなものか。
式典の手配が多いところで分かってもらえるかもしれないが、俺は中間管理職である。
日本は無宗教で数々の八百万の神が同居する島国だ。そこで、神々が喧嘩をしないように取り計らうのが、俺のような「神担当コンサルタント」なのだ。

天国から派遣される天使のうち、さえない奴らが抜擢される、さえない仕事。
あーあ。サンタのじじいと日本の神たち、もっと仲良くしてくれりゃあいいのに。



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