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超短編小説「敏腕社長のよすが」

お題:自分の中の夫


敏腕社長のよすが


どうしようか、ねえあなた。

この服、ちょっと派手かなあ。でもあなたは、赤が好みだよね。

ね、と問いかけ、いつだって決断を下してきた。

「T社との吸収合併の話には、やはり乗るべきかしら」

「部下のMは、最近派閥を大きくしてきたし、何か不穏な感じがしない?」

…やっぱりそうよね、あなたに相談して良かったわ。
ううん、相談だけじゃなくてよ。あなたがそばにいてくれるだけで、私安心するの。


稀代の女社長、U。
大学卒業とともに就職し、近代高層建設プロジェクトをエースとして引っ張り功績をあげたことをきっかけに、若くして出世街道を駆け上る、誰もが羨む天才、それがUだった。

「そろそろ子会社にも手を広げようと思うのだけれど、何から手を付けるべきかしらね」

考えることばかりで参るわ、とけだるげに髪を書き上げて、彼女は最愛の夫に『相談』する。

Uの夫は実に聡明で、彼女の話によく耳を傾け、そして彼女の背中を優しく推すようなアドバイスを常にUに与えた。
彼女は常に夫に感謝する。彼がいなければ、自分の心はとうにプレッシャーで押しつぶされていた。
どんな言葉で感謝を伝えても足りないと、口下手な彼女は常に済まなく思っていた。

ある日、早く仕事を切り上げられそうなめどがついたため、彼女は夫のために最高級のワインを購入して帰宅した。
「ねえ、あなた。いつもいつもありがとう。わたし、あなたがいなきゃ本当にダメな女なの。これからも、よろしくね?ふふ」


食卓には2つのグラス。…席にはU、ただ一人が座っていた。




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