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備忘録的サブカル近現代史考 002: ファミレスを舞台とした日常

用賀のイエスタデイでユーミンが詞のネタを収集したなどという話がありました。昭和的な感覚では、ファミレスで展開される恋愛模様がオシャレなものだったんでしょう…。実は昭和の終わりごろ、その近くの大学に通っていて、時々お仲間と繰り出していた店でもあり、あまりオシャレとは感じていない自分がいるので、脳内再生的メタ認知ばなしです。

確かに昭和の終わりから平成のはじめ頃は、ファミレスはデート・スポットだったわけです。如何せん当時はクルマというデート・ツールがありまして、駐車場があるファミレスは非常に使い勝手がよかったわけです。一方で1980年代のバブル絶頂期、ピークアウト直前にオシャレな制服を与えられ、読モ云々で元気いっぱいだった女子高生がナタデココなんぞを食している光景をよく目にするのはもう少し後、1992年頃だったりします。この辺はラジオ番組をはじめ、あちこちで語っていることですね。

その当時、ファミレスというのは、若者のライフスタイルにしっかり取り込まれていた、必要不可欠な場所だったはずなんですけどね。…ただし、東京をはじめとした都会限定のはなしかもしれません。郊外、例えば国道16号線沿いのファミレスは求められる要素が全く違いますからねぇ。ニュータウンに住まわれるニュー・ファミリーには、やはり必要不可欠な場所だったと思います。ただし、週末のランチやディナーでしょう。一部の店舗は平日の午後、女子高生がたむろしていたかもしれませんけどね。

それこそ、音楽の聴き方もレンタル・レコードをカセットテープにダビングして、カーステレオで聴くというのが主流だった時代は確かにありました。大型のCDラジカセというツールもありましたかね。デートで使うにしても、ファミレスはサブの目的地やトイレ休憩の重要ポイントにはなっていたように思います。そして、音楽はその行き帰りの過程を彩る重要なアイテムだったわけです。FM雑誌のオマケのカセット・インデックスなんぞを活用したりして、一生懸命コンピレーションを作りましたよ。ユーミンとサザンは全車常備のマスト・アイテムでした。

そんなファミレス、スカイラーク、デニーズ、ジョナサン、ロイヤルホストといったあたりには随分お世話になりました。ガストやびっくりドンキー、サイゼリヤなどが出てきて乱立状態になったんでしょうかね…。不二家レストランとかアンナ・ミラーズとか、好きな人は好きでした。カジュアル・ダイニングといった趣きの店舗は本当に重宝したんです。

ところが1990年代が終わろうとする頃、久々にランチで訪れたデニーズは、以前とはずいぶん雰囲気が違っておりました。華やかさや楽し気な雰囲気はどこへやら。お客さんも高齢者が目につく…と言うには、あまりに高齢者しかいない空間になっていたんです。そのことに気が付いたとき、正直ビックリしました。

そして、そんなことを2010年頃、若い人に話したところ、思い切り怪訝な顔をされましてね。確かにその当時、2010年頃には、我々も「今日はファミレスで済ませるか」といった扱いになっておりました。若い連中に言わせれば、給料日前に「カネがないからガストかサイゼリヤ」といった立ち位置にまでなっていたんです。「昔は気張ってデートで行くところだったのさ」と言ったところで、冷笑しか戻ってきませんでした。

ライフスタイルの変化も勘案した上で、日常の中の位置づけが見事なまでに変化していったファミレスというものに思いを馳せるわけですが、何なんですかね、この寂しさにも似た感覚は…。慣れない土地で、少々遅い時間に国道沿いのファミレスに入り、食事にありつけたときの安心感みたいなものは、もう味わえないのでしょうか。昔、東陽町の職場の近くにイエスタデイがあって、ちょっとアーリー・アメリカンなアンティーク・テイストの内装が好きで、よく利用していたんですけどね。デニーズも好きでしたね。

ちなみに、時代感覚を醸すアイテムを極力排して文章を書いていると思われる村上春樹の小説に、ファミレスはニュートラルな場として登場することがあります。彼はファミレスの立ち位置の変化を意識したことがありますかね?夜中に素面で会話する場面を描く舞台としては、結構重要な要素だったような気もします。そういう意味では、ユーミンとは言わないまでも、歌の中にもまだ居場所があるものなのかもしれません。

自分でカフェめし屋をやっているくらいですから、カジュアルでパクパク食べられるカフェめし的メニューが好きなもので、ファミレスがどんどん減っていくのは寂しいんです。チキンライスが詰まったオムライスとかスパゲッティ・ナポリタンみたいな、誰でも無難に楽しめるものを排して、専門的なちょっと凝ったメニューに置き換えていった平成の感覚が残念なのは、やはり私が昭和人だからなのでしょうか。

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