見出し画像

脳出血入院記(4)2022年7月 転院

 入院してから1ヶ月ほど経ち、体調が落ち着いて安定して、身体が動くようになってきたので、リハビリを本格的に長期的に受けられる病院へ転院することになった。

 ここの病院の看護師さんやリハビリの先生が良い人ばかりだったので、「僕はずっとここの病院でいいんですけど」なんて言ってみるが、それは無理らしい。ここの病院は救急車を受け入れる救急指定病院なので、いずれ必ず転院しなければならないそうだ。
 転院する日、朝ご飯を食べて片付けなども全て終わると、何人かの看護師さんが来てパパパッと手早く僕の身の周りの荷物を片付けて、あっという間にここを出て転院する準備が出来た。
 病室を出入りする看護師さんが「頑張ってね」「元気でね」と声を掛けてくれる。リハビリの先生もわざわざ来てくれて「向こうでも頑張れよ!」なんて声を掛けてくれる。本当に皆さんには感謝でいっぱいだ。「元気になったら遊びにおいで」なんて言われて、おそらく社交辞令だろうけど、元気になって動けるようになったら(そして新型コロナが収まったら)本当に遊びに来たいと思う。
 ベッドのまま運ばれて病室を出ると、両親が来ていた。新型コロナの感染予防の為に面会禁止だったので、数週間ぶりの再会。そしてそのまま運ばれて病院のワゴン車に乗せられて、転院先の病院へ向かった。

 転院先の病院は、住んでいたアパートの近くの病院を選んだ。だから、転院先の病院が近くなってくると、いつもの見慣れた街並みが見えてくる。いつも歩いてた道。いつも買物に行っていたお店。いつも見ていた景色。自分の家に確実に近づいてる。脳出血で倒れて家から運び出されて帰れなくなってしまった自分の家。そこにまた帰れる日に近づいてる。そう実感できて、感動が湧き上がってきた。

 病院に着いて、またベッドのまま運ばれて病院に入り、待合室の端っこで待機して、両親が色々と手続きをしている。しばらくすると僕は病室に運ばれて入り、両親は病室の入口まででストップ。「頑張れよ~」「じゃあまたね」なんて言葉を交わして、久々の再会は終了。
 病室は4人部屋。
 持ってきた自分の荷物を確認して、ここでの過ごしかたについて看護師さんから説明を受けて、お昼ご飯を食べて、「今日はもう何の予定もないのでゆっくり休んでください」なんて言われたのでスマホをいじりながらゴロゴロ寝ていたら、突然、何人もの看護師さんがゾロゾロと入って来た。どうした?なんだろう?と思ってたら、看護師さん達が僕を囲んだ。
 えっ!?僕なの!?
 そして何も言われずにベットのまま運ばれて、他の部屋に移動した。ガランとした部屋の奥にポツンと1人だけ寝かされ、カーテンを引かれて隔離された。転院してきた日にいきなり隔離ってどういうことだろう。
 けっこう恐怖なんだけど。
 自分で気づいてないけど、体調が急変して脳出血が悪化したとか?手続きに不備があったとか?気付かないうちに僕の態度が悪くて迷惑を掛けたとか?何だろう?

 移動して隔離が完了すると、おもむろに看護師さんが説明してくれた。前の病院で僕と同部屋だった人が体調不良になり検査すると新型コロナ陽性だったので、僕は「濃厚接触者」ということになってしまったそうだ。だから隔離された。
 そして万が一、僕が新型コロナ陽性者だった場合は転院を受け入れられないので、僕はたった1日だけで翌日の朝には元の病院へ戻ることになった。
 一晩過ごして朝になると、あの青い防護服を来た人達が来て、ベッドからストレッチャーに乗せられて運ばれた。そして物々しい警戒態勢で「通路を開けてください」「近づかないでください」などと言いながら移動し、僕にも「大丈夫ですか?」「体調はどうですか?」「お名前は?」などと何度も聞いてくる。濃厚接触者で陽性だった場合まで考えて体調を聞いてくるんだろうけど、僕自身は全く何の体調不良もないので、厳重に運ばれていることが面白くて笑えて来ちゃう。でもここで笑うのは不謹慎な気もするので、笑うのは我慢。これはまさに「笑ってはいけない病院」状態。そんなことを考えると余計に笑えてくる。
 どうにか笑うのをこらえながら救急車に乗せられ、僅か一日で元の病院へ戻る。一週間は様子を見るらしい。そして一週間経っても陽性でなかったらあらためて転院する予定。

 元の病院に戻ると、一人部屋に入れられた。新型コロナの濃厚接触者なので隔離されてるってことなんだろうけど、一人部屋は気楽でいい。人の背くらいある巨大な空気清浄機がある。音がうるさくいけど、一人部屋の気楽さの前では些細な問題だ。
 看護師さんはこの病室に入る時に青い防護服を着て、出る時に脱いで全身を消毒するそうだ。ものすごく面倒臭そう。
 おしっこをする尿瓶は、紙製の使い捨ての物。
 ご飯の容器もトレイも全て発泡スチロール製の使い捨ての物。これがむちゃくちゃ滑って食べづらい。何回かご飯を食べてみてから、容器が滑って動かないようにトレイと容器にテープを貼って固定してもらった。
 リハビリの時間も一応あり、担当してくれていた同じ先生がまた来てくれた。ちょっと感動的にサヨナラしたのに、たった1日でまた再会してしまい、苦笑いし合った。歩く練習を続けたかったのだが、僕がこの病室を出られないのと、病院の機器を使わせてもらえないので、病室内のベット脇の狭いスペースでちょこちょこと出来る範囲のことをやるしかない。せっかく身体を動かせるようになってきたのに、勿体ない。時間の無駄。
 新型コロナ陽性が判明したのは同部屋だった人だけど、入院してる患者は病院から出てないからね。患者以外で新型コロナ陽性に感染して病院に持ってきた奴がいるんだよ。誰よ?ふざけんなよ。俺の時間を返せ。

 何もやることが無い時は、テレビを見ていた。今まで病室は相部屋だったので、テレビを見る時は必ずイヤホンをしなければならなかった。でも今は1人部屋なのでイヤホンせずにテレビを見られる。たったそれだけのことなのだが、普通にテレビを見れるのが嬉しくて、部屋にいる時はずっとテレビを付けていた。
 ある日、お昼の情報バラエティ番組を見ていたら臨時ニュースに切り替わった。安倍晋三元首相の銃撃事件があり、テレビは全てそのニュースに。ものすごく重大なニュースなのだが、入院中に暗く重いニュースを見たくはないので、1日中ずっとテレビを付けていた僕のテレビ生活は終わった。

 なんだかんだで1週間が経過して、検査の結果、僕は新型コロナ陽性ではなかった。なので当初の予定通り、あらためて転院することになった。
 看護師さんが身の周りの荷物を片付けてくれて、ベッドのまま運ばれて部屋を出ると両親がいる。そしてそのまま運ばれて病院のワゴン車に乗せられて、転院先の病院へ行く。病院の待合室の端っこで待たされてから、病室に運ばれて入り、病室の入口にいる両親と「頑張れよ~」「じゃあまたね」なんて言葉を交わす。あれ?デジャヴ?一週間くらい前に同じことがあったような。この一週間は何だったんだろうか。
 色々あったけど、でもここからようやく本格的なリハビリが始まる。家に帰る為の戦いが始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?