現代日本人の書くものはわかりやすい。〜『血と霧』読書感想文〜
こんにちは、吟遊詩人の妙遊です。
ふだん中世ヨーロッパの人が書いた神話や伝説を読んでいます。
久しぶりに現代日本人が書くものを読むと、そのわかりやすさに涙ちょちょ切れそうになります。ふだんどんだけわかりづらいものを読んでいるのかを思い知ります。
中世ヨーロッパ人はまず全然感覚が違います。スマホもないし、銃もないし、電車もないし、車もない。
つぎに文学のお約束が違う。
現代は書面にしたときの読みやすさを考えますが、中世は音読の社会。そもそも読み上げるためにできているし、それどころか口で語っていたものを書きとめただけ感すらあります。
口で語るのと、書き文字の違い。わかりますか?
改めて考えることを普通はしないと思うのですが、中世のものを読んでると考えざるを得ません。
超!絶!まだるっこしい!!
歌の歌詞ありますよね。
もう何回も同じこと言うじゃないですか。
愛してる愛してる愛してる愛してる
……なんか錯覚で文が右肩上がりに見えるんですが気のせい?
この愛のインフレすさまじい歌詞。歌で聴く分にはいいですし、歌詞カードで見てる分にはよくても、実際に物語として読まされますと。
「おばあちゃんその話1000回くらい聞いたわ」と言いたくなるレベルでしつこい(うちのおばあちゃんにうちの母が言ってた言葉です)
しかし口で語ると悪くない。
そう、人はリフレインは気持ちいいんです。
グルグルしてループする感じ。
でも読んでるときは疲れる。マジで疲れる。
でもシビれる。……でも疲れる。
その疲れるけど面白い、昔の人の書いた文学を、現代日本人にわかりやすい形に語り直すのが、私のお仕事なのです。
さて、本題に入りましょう『血と霧』。
その世界は血の価値がすべてを決める。
血液を使って身体強化が可能、人の操作も可能、人の精神を暴くことも可能。
外界は生きるには厳しい環境。人々は巨大な巻き貝状の殻の中に都市国家を形成し、住んでいる。血の価値による階級制度は厳しく、下層は貧しい暮らし、上層は贅沢はできても過酷な部分も引き受ける暮らし。
最下層にいる、場違いにも高い血の価値を持つ男、ロイス。彼は人探しの依頼を仕事にする探索者サーチャーだ。人探しをする傍ら、彼自身も人を探していた。
そんな彼のもとに新たな依頼が舞い込む。とある少年の探索依頼だ。どうやらその少年自身も依頼人も複雑な事情があるようで、ロイスはずるずる事件にのめりこんでゆく……
スチームパンクっぽい世界感ですね。SFとファンタジーの中間の雰囲気です。
読んでいて、気持ち良いくらいにわかりやすく異世界の世界観が描写されてゆきます。
なによりも描写を読んでいると過去に見た様々な映画の映像を思い出します。
ふと気づきます。
ああ、これは私と同じ文化に生きている人の書いた文章だ。
……なんで外国で日本人に会ったみたいな感想になるのか。
いけませんね。たまには現代日本人の書いたものを読もうと思います。
ロイスさんが手練れでクールぶった無骨者感だしてますが、普通に情にもろくて優しい人なのが安心感ありますね。
……もっと追い詰められてほしい(鬼か)
物語はいくら人が不幸になってもいいですからね。現実はハッピーが良いですが。
続きが楽しみです。
ではまた会いましょう。吟遊詩人の妙遊でした。
浮き沈みはげしき吟遊詩人稼業を続けるのは至難の業。今生きてるだけでもこれ奇跡のようなもの。どうか応援の投げ銭をくださいませ。ささ、どうぞ(帽子をさし出す)