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離婚裁判百選㉕婚姻費用の終期を短くする方法?

 いま離婚訴訟を起こしています。相手の弁護士はいつも、期日のぎりぎりに書面を提出して、どうみても、婚姻費用を受領し続ける観点から私の離婚訴訟を急いで追行する意思を感じません。相手は伸びてもいいやと思っているのでしょうが、何か良い方法はないでしょうか?

日常的に寄せられる相談より抜粋

婚姻費用の終期?

 下級審の裁判例には、1年間に限定して分担を命じる事例や、5年に限定して支払金額を決定した方法を採用したものがあります。いずれも、昭和時代のものではありますが、いっぽうで、「終期を定めないほうがむしろ現実の事態に適応するものであり、かつ制度の趣旨にもかなうものというべきである」と判示する事例も同じ時期に散見されています。しかし、これらの事例はいずれも、平成8年に夫婦関係の破綻が生じている場合に慰謝料請求を制限する、と判示した最高裁判例以前のものでした。

制限をする考え方のご紹介


 一つの考え方に、最高裁の判例法理を婚姻費用においても援用して用いることが考えられます。

 
最高裁は「婚姻関係が既に破綻していた場合には,原則として…(中略)…このような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである」と指摘しています。戸籍の有無だけを保護の基準とはしない、そうではなくて、実質的な共同生活、平穏な生活が維持されていることを保護の基準として置いています。
 実は、実際に婚姻費用分担請求を制限した事例は、たとえば福岡高等裁判所宮崎支部において平成17年3月15日に出された裁判例に存在しています。

 
もう一つの裁判例には、離婚届けは出されていない状態でも、当事者間でいったんは離婚の合意を成立され、多額の離婚給付金の支払いを受けた事例で、離婚成立前に婚姻費用分担義務が消滅すると判断した事例があります(広島高決平成4年6月26日家月45巻3号58頁)。

 学説では、婚姻生活共同体への回復の可能性が皆無と認められる状況にあっても、なお離婚にいたっていなから(=形式的には婚姻中だから)という理由だけで婚姻費用分担義務の存続を認めることには疑問が残る、と指摘しているものがあります。辻朗「婚姻費用分担義務に関する一考察」204頁『21世紀の家族と法小野幸二教授古稀記念論集』(法学書院,2007)。

 ちなみに、前掲宮崎支部の高裁裁判例は、「相手方は有責配偶者であり,その相手方が婚姻関係が破綻したものとして広告人に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは,一組の男女の永続的な精神的,経済的及び性的な紐帯である婚姻共同生活体が崩壊し,最早,夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失してことを辞任することに他ならないのであるから,このような相手方から抗告人に対して,婚姻費用の分担を求めることは信義則に照らして許されないものと解するのが相当である」と述べています。

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