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160)人工甘味料は肥満を増やす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術160

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【甘味は舌の受容体で感知する】

舌には食べ物の味を感じる味蕾という小さな器官があります。これは味細胞と支持細胞からなる花の蕾のような小さな器官で、味覚の化学受容体として働きます。人間の舌には約1万個の味蕾があると言われており、食品中の物質がこの味蕾を刺激すると、味覚神経に伝わって、大脳の味覚中枢へと信号が伝わり、味を感じます。
 
味覚には「甘味」「塩味(辛味)」「酸味」「苦味」「旨味」の5種の基本の味覚があり、それぞれ別個の受容体(味蕾)が存在します。


図:味覚の基本は甘味・塩味・酸味・旨味・苦味の5種類で、舌の舌乳頭という小さな突起部に存在する味蕾(みらい)という味を検出するセンサー(化学受容体)でこれらの味覚を感じている。
 
 
味覚の基本的な役割は、食欲を高めるためと、食べ物と毒を見分けるためと思われます。5種類の味覚のうち、甘味・旨味・塩味・酸味は体に必要な糖分や塩分やその他の栄養素をとることができるような食べ物を選ぶため、さらに食欲を高めるために存在するようです。

しかし苦味だけは例外で、人類が苦味を感じる力を身につけたのは、植物の毒を検知して食べないようにするためだと考えられています。



【人工甘味料が肥満や糖尿病やメタボリック症候群を増やす】

前述のように、人間が食品中の甘味を感じるのは、砂糖などの甘味を起こす物質が舌の味蕾にある甘味受容体に結合するためです。この甘味受容体は、体のエネルギーになる食べ物(糖質など)が体に入ったという情報を脳に伝えるためにあります。
 
しかし、たとえカロリーにならなくても、甘味受容体に結合するものは、人間には「甘い」と感じられます。これを利用したのが、人工甘味料です。
 
人工甘味料(アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、ステビアなど)は、天然の砂糖の代替として使用される化学物質や合成物質のことです。これらの物質は、甘味受容体を刺激して甘みを与える能力がありますが、砂糖よりもカロリーが少ないかゼロであるため、ダイエット飲料、減糖タイプの清涼飲料水や菓子に使用されています。
 
アスパルテームはアスパラギン酸とフェニルアラニンの2種類のアミノ酸を用いて製造されるアミノ酸系甘味料で、甘味度は砂糖の200倍あります。そのため、少量でも砂糖に比べて甘味が強いため、アスパルテームは摂取カロリーの削減や摂取後の血糖値上昇を抑制する効果が期待されています。エネルギーにならず、インスリン分泌を刺激しないので、糖尿病や肥満の原因にならない、むしろ肥満や糖尿病を防ぐ目的で使用されるようになりました。
 
しかし、最近の多くの研究で、人工甘味料の入った飲料を多く摂取している人は肥満や2型糖尿病やメタボリック症候群が多いということが明らかになっています。


そのメカニズムはまだはっきりとは分っていません。いろんな説があります。
人工甘味料が腸内細菌叢に影響して肥満を増やすという意見もあります。低カロリー飲料であるとの安心感から加糖食品の摂取量が増加する可能性も指摘されています。
 
甘味の情報が来て、体はエネルギー産生の体勢に準備しているのに、エネルギーが増えないので、次第に食事の量が増えるというメカニズムが提唱されています。つまり、人工甘味料を摂取すると甘味を感じるものの、カロリーはほとんどまたは全く含まれていないため、脳が「もっとエネルギーが必要」と誤解し、食欲が増進されるという機序です。実際にラットの実験などで、人工甘味料の入った飲料を日頃から摂取させると食事摂取量が増えて肥満になる事が報告されています。
 
いずれにせよ、砂糖より健康に良いといわれていた人工甘味料も、最近はむしろ砂糖より健康に悪い可能性が指摘されているようです。



【米国では脂肪とタンパク質の摂取を減らして肥満が増えた】

米国では1960年代に生活習慣病の増加により医療費が膨れあがり、がんや心臓病の予防を目指した研究に巨額の予算がつぎ込まれるようになります。その成果の一つが1977年の「アメリカ合衆国上院栄養問題特別委員会報告書(通称:マクガバン・レポート)」という5000ページにも及ぶ膨大なレポートです。
 
このレポートでは、「諸々の慢性病は肉食中心の誤った食生活がもたらした食原病である」とし、肉や脂肪の摂り過ぎが心臓病やがんや脳卒中などの生活習慣病の発生に深く関与していることを指摘しました。
 
 
そこで、健康的な食事の基本は、肉と脂肪を減らすことが目標になりました。しかし、肥満が逆に増えてしまうという結果になっています。


1971年から2006年にかけての食事の内容(炭水化物、脂肪、タンパク質の摂取比率)の推移と人口の肥満率の推移を調査した論文があります。
(Trends in carbohydrate, fat, and protein intakes and association withenergy intake in normal-weight, overweight, and obese individuals:1971–2006. Am J Clin Nutr 2011;93:836–43.)


この論文では、ボディマス指数(BMI)が19~25未満が正常体重(normal weight)、25~30未満が体重オーバー(overweight)、30以上が肥満(obese)としています。
 
この評価で1971–1975年の肥満の率(BMIが30以上の割合)は男性が11.9%で女性が16.6%でしたが、2005~2006年の調査では、BMI30以上は男性が33.4%で女性が36.5%に増えています。つまり、30年くらいの間に男性では3倍近く、女性では2倍以上に肥満の人の率が増えています。


この論文では、炭水化物と脂肪とタンパク質のカロリー比について年代別に検討しています。

1971年~1975年と2005年~2006年の比較では、食事中の炭水化物のカロリー比率は44.0% から 48.7%に増えています。一方、脂肪のカロリー比率は36.6% から 33.7%に減っています。タンパク質のカロリー比率も16.5%から15.7%に減っています。
 
つまり、マクガバン・レポート以降、肉と脂肪の摂取を減らすような食事指導が行われ、実際に、脂肪とタンパク質の摂取が減っているのに、肥満が爆発的に増えています。
 
この論文では、糖質を減らしタンパク質の摂取を増やすべきだと言っています。脂肪摂取を減らすと糖質の摂取量が増えます。糖質はインスリンの分泌を刺激するので、肥満を起こしやすくなります。また、甘味の強い(糖質の多い)食事は報酬系を活性化して快感を生むので、食事の量を増やす作用があります。つまり、糖質の多い食事は食事の量も増え、摂取カロリーが多くなるので、さらに肥満になるというストーリーです。

「肉や脂肪の摂り過ぎが健康に良くない」というのは基本的には間違いではないのですが、その結果、相対的に糖質摂取が増え、糖質には報酬系を活性化して中毒になる作用があり、人間は快感を求めて食事の量が増えて肥満が増えてしまうという落し穴があったということです。
 
そして、カロリー摂取を減らすために、人工甘味料を使ったダイエットソーダやダイエットコーラを推奨したら、甘味自体に報酬系を活性化する作用があるのと、甘味受容体を刺激してもエネルギー源が入ってこないことを学習した人間はさらに食事摂取量を増やす結果になったので、人工甘味料の摂取が肥満や糖尿病の原因になったという予想外の結末になったということです。


人間に快感をあたえ、しかもダイエットになると考えられた人工甘味料は、動物に脳内報酬系という薬物中毒にさせる機能があったために、理論通りにいかなかったという結論です。
 
がん予防の食事の基本となったマクガバン・レポートも、結果的には肥満を増やし、肥満に関連するがん(大腸がんや乳がんなど)を増やす原因になった可能性はあります。

世の中には砂糖の代わりに人工甘味料を使用し、低カロリーやカロリーゼロと銘打った食品があふれています。しかし、人工甘味料の摂りすぎは健康にはマイナスと思われます。


図:糖質と甘味(人工甘味料を含む)はA10神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)や甘味受容体・味覚神経などを介して、脳内報酬系によるドーパミンの分泌や脳内麻薬のエンドルフィンの分泌を刺激して快感や幸福感を引き起こすので中毒になる。人工甘味料はカロリーがゼロでも肥満の原因になることが報告されている。甘味受容体が刺激されるとエネルギーになる食物が体内に入ったという情報になるが、人工甘味料はエネルギーにならないので、体は次第に食事摂取量を増やすようになるためと考えられている。

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