村上龍を暗唱する。

「限りなく透明に近いブルー」

喉の奥が焼けるように乾いている。リリーが首を振って残ったブランデーを自分も飲み、もうだめだわ、と呟く。僕はグリーンアイズのことを思い出した。君は黒い鳥を見たかい? 君は黒い鳥を見れるよ、グリーンアイズはそう言った。この部屋の外で、あの窓の向こうで、黒く巨大な鳥が飛んでいるのかも知れない。黒い夜そのもののような巨大な鳥、いつも見る灰色でパン屑を啄む鳥と同じように空を舞っている黒い鳥、ただあまり巨大なため、嘴にあいた穴が洞窟のように窓の向こう側に見えるだけで、その全体を見ることはできないのだろう。僕に殺された蛾は僕の全体に気付くことなく死んでいったに違いない。

#村上龍
#限りなく透明に近いブルー

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