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村上 龍「コインロッカー•ベイビーズ」を暗唱する。そのニ

そうだ、絶大な快楽と圧倒的な至福の中で妊婦を殺す時、この音は必ず僕を包んでくれるんだ、しかし誰の心臓だ? 僕のか? この女のか? ハシは大きく開かせた女の喉の奥を覗き込んだ。暗い穴には幾筋も交錯した血管が走り、一番奥に薄い膜が見えた。白い斑点がびっしりとこびり付いた半透明の粘膜だ。そこに見憶えのある形が浮かび上がった。降り続ける雪を背景に羽を広げた美しい鳥の形、孔雀だ。キクが女を撃ち殺したクリスマスイブの夜に見た孔雀だった。緑と銀色の翼のかげに、年をとった病気の女が立っている

    • 村上 龍「MISSING 失われているもの 」を読んだ。

      不思議な小説だった。 走り読みでも成立する。 村上 龍の母校に行きました。村上 龍の腰の強さは坂道だろうけど、あんまり感謝はしていないと思うな。 #村上龍 #MISSING 失われているもの #読書感想

      • 村上龍「コインロッカー•ベイビーズ」を暗唱する。

        さっき小さな声で、ハシは? 会えたね、と聞いた。キクは、いなかった、と答えた。和代は頷きながらキクの背で、今日は楽しかったねえ、映画も良かったし、と呟いた。その後口をきかない。大丈夫か、と声を掛けても、苦しそうに鼻で息をしている。「空車」ランプを点けて次々と通り過ぎるタクシーの群れ、キクにはわからない。どうして止まってくれないのだろうか、手を挙げても素通りしてしまう。このキラキラする街のルールは一体何なのだろうか、どうすれば他人と上手く付き合えるのだろうか、金でも暴力でもなさ

        • 村上龍を暗唱する。

          「限りなく透明に近いブルー」 喉の奥が焼けるように乾いている。リリーが首を振って残ったブランデーを自分も飲み、もうだめだわ、と呟く。僕はグリーンアイズのことを思い出した。君は黒い鳥を見たかい? 君は黒い鳥を見れるよ、グリーンアイズはそう言った。この部屋の外で、あの窓の向こうで、黒く巨大な鳥が飛んでいるのかも知れない。黒い夜そのもののような巨大な鳥、いつも見る灰色でパン屑を啄む鳥と同じように空を舞っている黒い鳥、ただあまり巨大なため、嘴にあいた穴が洞窟のように窓の向こう側に見

        村上 龍「コインロッカー•ベイビーズ」を暗唱する。そのニ