見出し画像

ダーツの神

 百発百中でダーツができるやつは最強だ。
 だって、そいつは計算さえすれば、勝負に勝てるのだから。
 計算で、勝てるのだから。
 普通は、そうじゃない。
 だって、どれだけ練習しようが、気合いを込めようが、どこにダーツの矢が飛んでいくかは、やってみないとわからないのだ。
 だからからこそ、ダーツは勝負になり、競う意味が生まれる。
 はじめから百発百中なら、競うもなにもない。
 だって計算しかないのだから。
 二二が四、みたいな感じで、電卓を叩くのとなにも変わらない。
 だから、つまらないと思う。
 最強は、つまらない。
 そんなの、人間じゃない。
 そんなの、機械とか、スマホと同じだ。
 わからないことは、わからないままでいい。
 だからこそ、人間が頑張れる。
 と思ってたのに、ある日、僕の友達のさっちゃんが、ダーツマスターを目指すために、自身の右腕を手術して、改造すると言い出す。
 僕はすぐに反対する。
 そんなのおかしいだろと。
 でもさっちゃんは笑って言う。
 「あのね、この改造が成功したら、僕はダーツで食っていけるんだよ」
 いや、でも不公平じゃないか?
 「別にいいじゃないか。勝てばいいのさ」
 だって、他の人たちは頑張って練習をしてるじゃないか。
 「他人なんか知らないよ。僕は百発百中になれる。そしたら神だ。ダーツの神。あいつらなんか、天から見下してやるさ」
 天から見下す?
 いつからそんな偉くなったのか?
 僕はあきれてしまうが、本人は本気だ。
 他人を見下すダーツの神。
 いや、確かに神は、人間を見下してるのかもしれないけど…
 「僕はやってやるんだ。神になり、憎きあいつらに天誅を下してやる!」
 あーあ、完全に調子に乗ってるな。
 大体手術ってどうやるんだよ。
 そう思ってたら、さっちゃんのケータイが鳴る。
 僕に断りもなく、さっちゃんはケータイにでる。
 すると、みるみるうちに、さっちゃんの表情が高揚していく。
 「はい!はい!明日ですね!わかりました!ありがとうございます!!!」
 さっちゃんはテンション高めでケータイを切る。
 その瞳は輝いている。
 「やった、ついに決行だ。僕は神になるんだ!」
 はいはい。
 神になって、天から雷でも落としてればいいですよ。
 ルール破りのバベルのさっちゃん。
 もう知らん。
 僕は黙ってその場を立ち去る。
 その数日後、やはり思った通りの展開になる。
 さっちゃんは、どこかの廃病院の密室で、死体となって発見される。
 なぜ発見されたかといえば、その廃病院は、死体の発見日に取り壊される予定だったからで、死体を発見したのも、その現場の作業員だった。
 つまり犯人は、死体が発見されることも含めて、犯行に及んだのだ。
 つまり、計画のうちだったのだ。
 ダーツの神のなりそこないが、こうして発見されることが。
 でも、それはどうしてだろう?
 神のなりそこないが、面白いから?
 謎めいた事件を起こしたくなったから?
 みんなの反応を見てみたいから?
 有象無象を笑ってやりたいから?
 それとも、ただの退屈しのぎ?
 まあ、どうでもいいのだけど。
 人間は、わからないから頑張れる。
 わからないことは、わからないでいい。
 神だの謎だの、どうでもいい。
 そんなの、わからないを埋めるための、適当な言葉、でっち上げに過ぎないのだ。
 僕は僕にとってわかることを、わかる範囲で、頑張ればいい。
 勝ち負けは、その後についてくる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?