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クリエイター集団を「きちんと稼げる」ようにした8つの約束

「クオリティが大事」だけではビジネスは成立しない

僕らは企業の「社内報」をつくっています。

社内報をつくるのは、社内のディレクターやライター、デザイナーたち。みんな、クオリティにこだわる優秀なクリエイターです。

でも社内のクリエイターが「クオリティがいちばん大切ですよね」と言ってきたら、僕は「違います」とはっきり伝えています。

もちろんクオリティを追求しなくていいと言っているわけではありません。

クオリティはとても重要ですし、うちの社内報のクオリティには僕も自信を持っています。なによりクオリティが低かったらビジネスには絶対になりません。

ただ「つくる仕事」をビジネスとして成立させるためには「クオリティが大事」だけを唱えていたらダメなんです。

表現が難しいのですが「クオリティ」を追求するだけではビジネスとして成立しないし、うちで働いてくれるクリエイターも豊かになれないのです。

僕らもいろんなトラブルを経験して、さんざん議論を重ね、この結論にたどりきつきました。今日は僕らなりのクリエイティブに対する考え方をお伝えしたいと思います。

クリエイター、質か量か問題

クリエイターは基本的に、稼ぐことよりも「自分のデザインや文章が評価されること」を求めるものです。

僕もディレクターとしての経験が長いので、とにかくクオリティにこだわりたい気持ちも理解はできます。

みんなお客様のためにクオリティを追求しまくって、いいものをつくろうとがんばってくれていました。

いっぽうで、僕らのビジネスは決められた仕事量をこなさないと食べていけません。

僕らの稼ぐ仕組みはいたってシンプル。「単価×制作量」で売上が決まります。

一番重要なのは単価で、生産性のほとんどを決めてしまいます。単価を上げるための企業努力が欠かせないのは言うまでもありません。ただ、単価を上げるにもだいたいの相場があり、限界はあります。

つまり稼ぐためには「制作量」を増やすアプローチを避けることはできないのです。

だから僕は経営者として、一定の量をこなすことを求めないといけません。

でも当時はクリエイターが個業化していたため、簡単に「もうこれ以上はできません」という声が上がっていました。また、全体の視点を持つクリエイターも少なくチーム連携も進まないため、すぐに仕事が回らなくなりました。社員は疲弊し会社の雰囲気もどんどん悪くなっていきました。

社内を見渡すと忙しそうにみんな働いている、それでも会社は赤字でした。

僕も「この仕事量をやらないと会社はやっていけないよ?」「カッコいいこと言ったって、稼げなかったら仕方なくない?」と説明するのですが、なかなかわかってもらえません。

そして最後には決まって「量を取るとクオリティが下がる、クオリティを求めると量ができない」という論争になって、収拾がつかなくなるのです。

クリエイティブの業界では、この「量と質の問題」が必ずと言っていいほど出てきます。

僕らもこの問題になかなか決着をつけられませんでした。

いくらでも時間をかけていいわけじゃない

ほんとうは、クリエイターのみんなにも稼ぎ方を理解して、ビジネスサイドの視点も持ってほしいんです。

たとえば「コンビニで売価500円の牛丼をつくりましょう」と言われたら、そもそも使える牛肉は限られます。売価を大きく上回る高級牛肉を使えるはずがありません。

それが「クリエイティブ」となった瞬間に、コストが青天井になるんです。「いいものをつくるためならいくらでも時間をかけていい」となりやすい。でもそれではやっていけないんです。

だから、なんでもかんでも時間をかけるのではなくて、与えられた条件の中でベストな質と量を両立させる。これが僕の考える「プロ」としてのあり方です。

「なによりもクオリティを優先したい!」というクリエイター魂を傷つけたいわけじゃない。でも「つくる仕事」をビジネスにして稼いでいくために「ベストな質と量」を追求できるようになってほしい。

その考えをみんなで共有するためには「目指すものをきちんと言語化する」しかないと思いました。

「コンパス」という8つの指針

そこで、僕らは「コンパス」という8つの指針を作りました。制作をする上での考え方をわかりやすい言葉でまとめたのです。

少し話は変わるのですが、その当時、僕らはかなり深刻な組織崩壊を起こしていました。

会社が目指す方向性がまったく定まらない中で、組織はバラバラに。そこで組織の立て直しのために「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「コンパス」をみんなで議論してまとめていきました。

「ミッション」「ビジョン」「バリュー」はけっこう抽象的な目標です。それに対して「コンパス」は、日々のコミュニケーションで使える仕事の指針です。

コンパスをつくったことで「僕らはこういう考え方で仕事をしているから、こうしよう」というコミュニケーションが取れるようになり、次第に言い争いに時間を割くこともなくなりました。特に若い人からは「仕事に集中できるようになりました」とうれしい声をもらいました。

以下では8つのコンパスを簡単にご紹介したいと思います。

稼ぐことがいちばん大切

コンパスのいちばん最初は「生産高第一主義」です。これは「稼ぐぞ」という宣言です。

生産高とは「いくら分の仕事をやったか」より直接的には「1人あたりの粗利」のことです。いまは評価もすべて「1人あたりの粗利」をベースに行なっています。

「稼ぐことがいちばん大切」というのは、ビジネスをやる人からすればあたりまえです。

でも、クリエイターの人たちはふつうに「お金よりクオリティが大事だよね」と思っていたりします。

繰り返しますが、僕らは一定の仕事量をこなさないと食べていけません。クオリティにこだわりすぎて、必要な仕事量をこなせなかったら会社はつぶれてしまいます。

だから「クオリティがいちばん大切だよね」と言う人には、はっきりと「いちばん大切なのは粗利です」と伝えています。

ただ粗利と言うと生々しすぎるので、コンパスでは「生産高第一主義」としています。

もちろん質も、とうぜん量も

「量を求めるならクオリティが落ちてもいいんですね?」と反論する人もいます。

それに対する答えとして、2つ目に「もちろん質も、とうぜん量も」と言っています。

量と質はトレードオフになりがちです。でもほとんどの場合、量も質もどっちも大事なんです。どっちを取るか議論すること自体、時間のムダだと思っています。

実は、僕らの世界では量と質はほぼ比例します。優秀なデザイナーはとにかく仕事が速く、クオリティも安定しています。

逆に「量はこなせないけど、いいものをつくれる」という人には会ったことがありません。

だから僕らは「量と質のどちらを取るか」という議論はしないことにしています。「量も質もどっちも大事です」と言って終わり。それを議論するヒマがあるなら「つくること」に時間を使ったほうがいいです。

つくる時間がいちばん大事

量も質もどっちも追求するには「つくる時間」を確保しないといけません。

だから3つ目は「つくる時間がいちばん大事」としました。

以前は「時間がないからこれ以上は無理です!」という声がよく上がっていました。

でも「今日何時間つくってたの?」と詳しく聞いていくと、打ち合わせなどの「つくっていない時間」が意外に多いことが判明します。

打ち合わせの時間ももちろん大切です。でも、打ち合わせをしていると「仕事をしたつもり」になりやすいんです。

「つくる時間が一番大事」という認識がないと、時間の終わりがなくなります。30分で済むものが40分になり、50分になり、1時間になっていく。だから時間の使い方について、組織全体で合意形成をしておく必要があるんです。

コンパスの4つ目から7つ目は、基本的に「つくる時間」を確保するための考え方になります。

4つ目は「仕事を増やすのは素人、 減らすのがプロ」

チームで仕事をしていると、他の人の仕事を手伝ったり助言したりといった助け合いが生まれます。これ自体はいいことです。

ただ、仕事は放っておくと増えていくものです。助け合いから生まれた仕事が固定化し、あたかも標準業務のようになってしまうことがあります。

そうした業務にはフィーがつきません。どれだけやっても利益にならないことをやり続けるのは「罪」です。

本当に必要な仕事だけを、必要な人数でやりきる。

この基本を、勇気をもって守ることが大事です。

5つ目は「人の時間を盗まない」

これは単純に、上司や先輩など上の人がやりがちな、人の時間を盗むのはやめましょうということです。

いっぽうで「人の時間を盗まない」を過剰に意識すると「誰にも頼れない」となってしまう。それは違います。

そうではなく「人の時間を盗まない」という指針が頭の片隅にあることで「この人の時間盗むことになるな」と配慮した上で声をかけることができる。その思いやりが大切なのです。

6つ目は「言いたいことは言いたい人に、直接言う」

クリエイターは個が強いので、他人の作品を面と向かって批評することを躊躇しがちです。ほんとうは「もっとこうしたらいいのに」とか「いや、これは違うんじゃないか」と内心思っていても、なかなか口に出しません。

自分の意見が正しいとも限らないし、お客様が気に入る可能性だってある。そもそも他のクリエイターの作品にイチャモンつけるのもどうか……などと考えがちです。

でも、お客様のためにも、効果的にクオリティを上げるためにも「言いたいことは言いたい人に、直接言う」のが大切です。

もちろん言葉選びには配慮が必要ですが、ものづくりの現場では「配慮」はしても「遠慮」はいらないのです。

7つ目は「指摘するだけでなく提案を」

僕らのような制作会社はすべてを自社でコントロールできません。

僕らが制作しているのはあくまでもお客様のメディア。なので、編集もデザインも、制作スケジュールも含めて、いろいろなことがお客様の要望に左右されます。

仲間内から指摘を受けても、それは自社でコントロールできない事柄だったりします。そういうことを言われるのは辛いので、だんだんみんな指摘しなくなってしまいます。

でも本来、指摘はクオリティを上げるために大切なこと。指摘をしないことをよしとするのは間違いです。改善すべきところは改善すべきです。

そこでポイントになるのが「指摘と提案をセットにする」こと。そうすれば建設的な指摘になります。

みんなには「提案があるから指摘ができるんだよ」と伝えています。

みんな同じルールでやる

8つ目は「改善は全員で一気に」

情けない話なのですが、それまでうちの会社にはオペレーションのルールがほとんどありませんでした。

わかりやすいところでいうと、デザイナーが使うアプリケーションすら統一されていませんでした。人によって仕事のやり方がバラバラだから、すごい非効率が起きていたんです。

ものづくりをしている以上、チームによって「進め方がぜんぜん違う」というのは困ります。上司が変わったら言われることもぜんぜん変わる。そんな職場はすごいストレスです。

だから、オペレーションのルールをつくったり改善するときは、初めから一気に水平展開するつもりでやることにしています。

同じスピードで漕ぐから前に進める

もちろんコンパスをつくって終わりではありません。

コンパスを使いクリエイター達とコミュニケーションを取ることが何より重要です。数年にわたって続けてきましたが、いまも道半ばだと思っています。

「稼ぐのがいちばん大事」という考え方が馴染まない人はやめていきました。

残念ですが、組織をつくるために必ず通らなければいけない道だったと思います。冷たいように聞こえるかもしれませんが、価値観や企業文化と合わない人が組織にいてもいいことはありません。本人にとっても価値観が合い、能力をいかせる別の職場を選択した方がいいんです。

僕はよく社員にレガッタの話をします。

レガッタというのは、団体でボートを漕いでスピードを競うスポーツです。みんなが均等にオールを漕いでいかないと、前に進みません。

誰かが「ちょっとサボってもいいか」となった瞬間にリズムが崩れてしまいます。かといって、誰かひとりが「俺はがんばるぜ!」と言ってみんなより速いペースで漕ぐのも困ります。

ようするに、同じタイミング、同じストロークで、長く漕ぎ続けることが大事です。

「コンパス」は、ひとりが気をつけても意味がありません。みんなに見える形で共有したことで「チームとしてよくなろう」とみんながちょっとずつ働きかける形をつくることができた。それがよかったのだと思います。

ふつうに働いて、ふつうに稼げる会社にしたい

むかしの印刷業界は、時間の管理など一切ありませんでした。

デザイナーたちはみんな徹夜をして、休日も関係なく働く。

僕たちが20代や30代前半のころはそれが普通だと思っていました。当時は「印刷機を回すためならデザイン代はただでもいい」という考え方の印刷会社が多かったと思います。

かつての僕も「底辺だなあ」と思いながら、デザイナーとして夜な夜な働いていました。

だから、いまのglassyという会社を立ち上げるときに「クリエイターがやりたい仕事をして、きちんと稼ぐことができる。ふつうに家が建てられたり、家族いい思いをさせてあげられたり、親も安心してる。そんなあたりまえの幸せが得られる会社にしたい」と思ったんです。

稼ぐことにこだわるし、質も量もどっちも追求する。合わない人もいるかもしれませんが、それが僕らのやり方です。

昨期はコロナの影響もありつつ、各ユニットでバラツキはありますが、一人あたりの粗利額もプラス基調で推移しました。現在も模索中ではありますが、組織の伸びしろはまだまだあると考えていきます。

「働きがいのある会社ランキング」に選出

去年、僕らの会社は初めて「働きがいのある会社ランキング」にランクインしました。そして今年は「働きがいのある会社ランキング」のベストカンパニー100に選んでいただくことができました。

働きがいのある会社として以下の3点を評価いただいたようです。

1.利益が公正に分配されている
2.経営・管理者層の示すビジョンが明確
3.労働環境が安全・衛生的である

まだまだ組織には課題が山盛りで、正直にいうとベストカンパニーの実感はありません。それでも、こうして選んでいただけたことは前に進めている兆しかなと思っています。これからも、チームで力を合わせてみんなで前に進んでいきたいと思います。

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