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『82年生まれ、キムジヨン』が物足りなく感じたワケ【ミーハーがなんだ】#4

【イントロ】

ども、Kaiです。


僕自身、大学の卒論で
「ジェンダー学」をかじってからと言うもの、
その手のテーマに大変関心をもつようになりました。


在学中、
友人の言動の「ポリコレ」に
あまりに敏感になってしまい、

「ジェンダーポリス」

というあだ名まで付けられる始末でした。笑


もちろんテーマだけでなく、
『82年生まれ、キムジヨン』には
映画としても並々ならぬ期待を抱いていました。

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ご存知の通り、
今回夫婦役を演じているのは、
『トガニ』『新感染』に続いて
3度目の共演となる
チョンユミとトッケビ…もといコン・ユなわけです。

期待しないわけがないんですよ。


さて、そんな僕が本作を観て抱いたのは、

「思ったより物足りない…。」

という予想外の感情でした。


ただ、
それは駄作だったわけではなく、
様々な人に観られる
映画という媒体、興行としては

「ある種の成功」

と言えます。


そのワケをちょっとまとめてみますね。


【背景】

そもそも「ジェンダー」って?

という話からします。


私たちは様々な経験を通して、人間を〈分類〉をします。
〈黒人〉や〈白人〉、〈障害者〉や〈健常者〉というレッテルを
貼られることは、その人の人生に多大な影響を及ぼします。


その〈分類〉の中でも
〈男〉か〈女〉か〈それ以外か〉を分ける
ルールこそが「ジェンダー」です。
(少なくともこの記事内では)


生物学的性差をsex
社会的性差をgenderと分ける場合が多いですが、
性役割や単なる性別なども含め
「ジェンダー」と言ってしまうことも多々あるので
混乱を招きかねないってわけです。


さて、皆様
『Gender Gap Report』
ご存知でしょうか?
(↓2020年版リンク)
http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf

社会参画や政治における地位、
就学率や健康などの観点から
男女間の社会的性差を国別ランキングでまとめているものです。

ちなみに2020年版では、
韓国は108位、日本は121位です。
(両国とも長らく下位に甘んじている)

日本では中世以降、
徴兵や天皇への服従等、政府の思惑もあって、
家父長制がお侍さんのいた頃から続いています。

韓国に関しては、
儒教や徴兵の影響が
男は労働or軍、女は家事育児という典型的な性役割観が
根強く残っている大きな理由となっています。

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最近観た作品では、
「はちどり」という韓国映画が
90年代の韓国社会を生きる女子中学生の様子を
(キムジヨンとほぼ同世代)
社会的背景と合わせて生々しく描いているので
おすすめです👍

ちなみに、
劇中で主人公の姉ウニョンが
父の失業をきっかけに学費が安い大学を
選ばざるを得なかったというお話。

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1997年に起きた韓国の通貨危機について
『国家が破産する日』という秀作で
様々な人の視点から詳細に描かれています。

韓国政府は通貨危機の翌年、
失業率が2倍以上になりながらも
女性政策に積極的に取り組みました。

結果、女性の大学進学率は
93年:38.4%→00年:68.0%→08年:83.8%
と上昇。(その後は下降傾向)

ただ韓国国内では、
オンラインでの性暴力や女性を狙った通り魔事件が
深刻な問題となっています。
劇中でも怯えながら過ごす女性の様子が
描かれていました。

また、
日本の内閣府が2016年に発表した
『就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)』では
韓国は最下位(11.2%)となっており、
女性の管理職の少なさが問題になっています。
(日本はブービー賞:12.5%)

賃金格差も大きく、
男性と比べて6〜7割程度しか
女性は給与をもらえないというデータまで出ています。

当然時代が変われば、
人々の意識も多少は変わりますが、
韓国も深刻なジェンダー的不平等をいまだに抱える
国のひとつと言えます。


【「物足りない」のはなぜか】

本作は、
女性に対する心ない言動が
意図的かつふんだんに盛り込まれた作品であり、
月並みな言葉で言えば、
「作られたことに意味がある」
映画的な作品です。

その為、
予告編が公開されると、
「男だって苦労しているのに…!」という一部の男性の声だけでなく
「こんな薄っぺらい感動で私たちの苦労が描けるのか!!」
と味方であるはずの女性たちから猛抗議もあったそうです。


物足りないポイント①
「大衆を意識した映画であるということ」


冒頭で僕が

ただ、
それは駄作だったわけではなく、
様々な人に観られる
映画という媒体、興行としては
「ある種の成功」
と言えます。

と書いたのはこのことです。

ジェンダーの問題を語る時に気をつけねばならないのは、
「理想を語るのは大事だけど、現実を見るのはもっと大事」
と言うこと。

例えば、
電車の女性専用車両や
映画館のレディースデイについて
「男性差別だ」と言う人が
実は思いの外多くいます。

たしかに男女分け隔てなく
安心して電車に乗れる社会
休日は映画を楽しめる社会であってほしいですが
それは「理想」です。

「現実」を見れば、
痴漢や盗撮などの性犯罪は絶えませんし、
男女間の賃金格差も解消されていません。


映画やドラマなどのエンタメに関しても同じです。

最近、
LGBTQ+の役に
実生活でもその役に当てはまるセクシャリティをもった
俳優を使えという動きが高まっています。

「誰が演じたっていいじゃないか」というのは「理想」
「まずは雇用機会を均等にして、セクシャリティに関係なく働けるエンタメ業界にするための一歩を踏み出そう!」というのが「現実」です。

要するに、
本作に抗議する声も大変理解できるのですが、
「まずは様々な世代や地域の人たちに、世の中に蔓延る地獄のような女性差別を認知してもらおう」
という「現実」を見ることから始めるのも大切だということです。

この映画を観た人が
今まで考えたこともなかった社会問題に気づき、
その意識を少しでも高められたなら、


映画という媒体、興行としては
「ある種の成功」

と言えるのではないでしょうか。


しかしながら、

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最近絶賛されまくりのこちらの作品。
監督のSNS上の発言が炎上していますね。

多様な意見がある。素晴らしいこと。人の数だけ意見が富んでる。素晴らしいこと。でも自分の映画を社会的にはしない。これは娯楽。娯楽映画で問題の第一歩を感じれればいい。社会問題は誰も見ない。映画祭やSNSでインテリ気取りが唸り議論するだけ。なので娯楽です。多くの人に観てほしい。それだけ — 内田英治 (@EijiUchidaFilm) September 27, 2020

僕の意見と大筋は変わらないんです。

ただ、社会問題をテーマとして扱う人間の意識として、
ちょっと一言二言多い気がしますねえ…。

「現実」を見るのはいいことですが、
その先の「理想」を軽んじすぎです。

一方、
『82年生まれ、キムジヨン』は
「娯楽」を提供するだけではない覚悟が感じられるので、
大衆向けだからといって批判はしたくない
というのが僕の意見です。


物足りないポイント②
「キャラ設定やエンディングが全体的にフワッとしている」

「意外と旦那さん親身になってくれてるじゃん?」
「結局ジヨンは幸せになれたの?」

と感じてしまった自分に自分で反論します。


・単なる「娯楽」にさせない
・未だ地獄だが、変わりつつある社会への「理想」「希望」も残すというこの2点が非常に重要。


⚠︎ネタバレアラート⚠︎
結末に触れるので、観たくない方はご注意!


劇中終盤でジヨンは、
精神科に通い始めるなど
再就職はまだ難しいけど、
健やかな未来に一歩を踏み出します。

「結局就職できなかったじゃん最後…本当に幸せなん…?」

と思う方も多いでしょうが、
これが「現実」です。

就職もできて、家族仲もさらに深まって
周りの親戚や同僚の理解も得られて
〜めでたしめでたし〜
というのはそれこそ
ただの「娯楽」にすぎません。

一方で、
社会的弱者をテーマにした作品の多くはバッドエンドです。

でも、
世の中の女性差別に対する問題意識が高まっているのも事実。

つまり
・単なる「娯楽」にさせない
・未だ地獄だが、変わりつつある社会への「理想」「希望」も残す

という2点をすり合わせれば、
どっちつかずのエンディングもアリだと僕は思います。

また、
トッケビ…
もとい旦那がジヨンを気遣う様子も多く見受けられます。
(最終的に育休も取ったみたいだし)



これまでの作品なら

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こいつみたいなモラハラ夫が登場するはずです。


しかし本作では、
上の世代の凝り固まった価値観に耐えながら、
泣いて泣いて悩みながら、
現代の男性のあり方を模索する視点も取り入れられています。


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本作のように、
家事に追われ限界を迎える女性を描いた作品に
『タリーと私の秘密の時間』があります。
(結末に気づいた時にハッとする秀作ですのでこちらもぜひ)

ただ今までのこういった作品はやはり、
旦那が無関心かモラハラクズ野郎の場合が多いので、
本作が他作品と一線を画して話題になる理由もわかる気がします。


【まとめ】

最近日本でも
少子化対策で夫婦に補助金とか言ってますが、
育休や産休の制度を取りやすい社会を目指すなど、
もっと本質的な部分の改善に動き出してほしいもんです。

という小言はさておき、

『82年生まれ、キムジヨン』を観て
「物足りなさ」を覚えたので
言語化してみました。

ただそれは、
本作に対する抗議的感情ではありません。

先に述べた通り、
未だに地獄のような差別が蔓延る現代社会で作られた
社会的性差をテーマに扱う作品として、
その「物足りなさ」は必然だったのかもしれません。


読んで頂き、ありがとうございました。


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