その引き裂かれ方、身に覚えがありすぎる

3月16日(月)

朝ちゃんと目覚ましで起きてゴミを出したのでえらかった。朝ご飯は目玉焼きをのせたキムチ丼とわかめの味噌汁。キムチとごま油の組み合わせが強すぎる。

昼に母と待ち合わせて銀座の高級薬膳火鍋専門店に。鍋の中央で区切られた二種類のスープに香辛料や漢方薬の原料になりそうな天然植物がごろんごろんと入っている。スープが沸騰したらそこに野菜やしゃぶしゃぶ肉を入れて二種類のスープを混ぜて食べる。食べた瞬間に体が温まり胃腸が動き始めるのがわかる。食べるのに夢中だったので写真はない。野菜やきのこも大きくて味がしっかりしている。サツマイモとジャガイモのあいのこのような芋がとろとろに甘くて特に美味しい。

感染症の流行によって中止になった母の旅行の話と、感染症が流行したのに強行された私の旅行の話を交互にする。あとは夏に生まれる予定の弟夫婦の第二子の話。

最後に鍋に投入された中華麺を食して皿のスープまで完食し、台湾茶と杏仁豆腐をいただく。会計の段になって、「お母さん、コーヒー飲みたくない? この後コーヒーは私がごちそうするよ!」と言って、お高い薬膳鍋コースの料金を二人分払っていただいたのだった。

外に出ると、天気はいいのに風が冷たくてとても寒い。地下にある個人経営の喫茶店のおかみさんが呼び込みをしていたので入ってみる。できたてのカボチャケーキが温かくて口の中で溶けていってとても美味しかった。さっきコースのデザート食べたんだけどね。

母と別れて池袋へ。献血したかったのだけれど時間が微妙に足りず、エクセルシオールに入った。原稿やらなきゃ〜と思いながら山崎ナオコーラ『かわいい夫』を読む。そして美容室へ。担当してくれているMさんはライオンのたてがみのような髪型になっていた。そして真っ黄色のトレーナーを着ている。かわいい。

暖かくなって髪が伸びるのが早くなった。伸びるとすぐもさっとしてしまう前下がりボブにやや飽きた旨を伝え、すっきりショートカットにしてもらう。春だし! 耳出し!うっかりしたら女バレ中学生みたいになりそうなショートなのに、ちゃんとロング丈のワンピやスカートに合うような、大ぶりのイヤリングが似合う髪型にしてくれてありがたい。Mさんにメイコとの出雲旅行のお土産を渡して手を振って店を出る。

地下道を通ってルミネに向かった。8階のシネ・リーブルでNTLive「フリーバッグ」を観る。イギリスの舞台公演を映像化したもの。この舞台を元にしたドラマもシーズン2まで作られているそうだけれど、そちらは未見。上映時間90分弱なのに特別料金で3000円かかるのだけれど、本当に観てよかった。本当に観てよかったけれど誰にでも薦めたいわけではない作品(だと思うので、これを私に薦めてくれた同僚男性は慧眼というかなんというか)。

一人芝居で、主人公は経営しているカフェの資金繰りに窮していて、彼氏と別れたばかりで、性に奔放であけすけに自分を語る若い女性。
冒頭で就活の面接に大失敗した主人公が、彼氏との別れの顛末に始まりこれまでのセックスや相手の男のこと、友人の死、家族との関係等々を思いつくままに語っていく。観客席にいる人たちの歓声や笑い声が入っていて、開始直後からどっかんどっかん盛り上がっているので、各賞総なめの大人気公演というのもうなずけた。

下ネタのオンパレードって聞いていたけれど、実際下ネタが次から次へと出てくるので笑っていたのだけれど、語られる内容以上に、主演のフィービー・ウォーラー=ブリッジのジェスチャーや間の取り方、視線の使い方が絶妙ですごかった。釘付け。
内容については、下ネタ話す系の女子コミュニティだったら、こんなかんじのノリと勢いで話すよなあと思いながら観ていた。ただ、私はそれを露骨な形で表現したり男の前で見せたりはない。そうすべきではないと思っている。だけどこの主人公は場面によって自分を使い分けることをしないで全部さらけだすから、観る人によっては嫌悪感を感じたり、「友達や恋人にはしたくない」っていう感想を持ったりするんだと思う。でもそうやって「友達や恋人にしたくない」とかジャッジメントしてくる他人(観客)に毒吐いて中指つきたててくるような主人公だった。だけどその主人公は同時に、「自分の人生の5年間を、完璧なボディと交換できるとしたら交換したい人はいる?」と問いかけられたときに、一人だけ迷うことなく手を挙げてしまうような女性でもある。世間に毒吐いて中指立てるような生き方をしているのに、誰より人の目に自分がどう映るかを気にしていて、そして男性に欲望される身体としての自分にしか価値を感じられずにいる。
私はもうその引き裂かれ方が身に覚えありすぎて!!!!!!
人間ってそう、安易に一面だけでは語れないんですよ。酔って実の父親に迷惑かけることもあれば、泥酔した女の子を心配して送り届けることもあるわけで。そして過ちを犯して人を傷つけた加害者としての自分がいれば、人生のいろんな場面で傷つけられてきた被害者としての自分もいるわけで。どちらも自分でそうと認めるのはめちゃくちゃ困難だけれど、「主人公は自分が目をそむけてきたものと向き合うために自分を率直に語ることが必要だったんだ」なんてわかったようなこと言うのも、それはそれで安易な決め付けだよなあと思う。

そして一観客としての自分が彼女の一人語りをどう受け取ったかと言えば、大爆笑しながらも笑ってしまっていた自分に罪悪感を覚えたり(ネズミに似た男がネズミ恐怖症だって言って去るところ、めっちゃしんどい場面なんだけれど笑っちゃったよ)、自分自身のトラウマがよみがえってなかなかしんどいなあと思いながらも観た後はやっぱり爽快感があってはげまされていたり。うん、やっぱり一言では語れない、一筋縄ではいかないとしかいえない。

とにかく観てよかった。ドラマ版もおもしろいそうなので観るのが楽しみ。だけど原稿が終わってから観ようと思う。(←相方メイコへのエクスキューズ)

#日記 #エッセイ #映画 #フリーバッグ #NTL

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