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20世紀型の価値観の構造転換と人本主義:Galapagos Supporters Book⑤(後編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

本記事は、シリーズ第五弾・シニフィアンの村上さんとの対談記事の後編です。前編については、以下よりご笑覧ください。

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社会に働く慣性の法則、打ち破るのは若きリーダー

中平:「理系は構造への疑いを持ちやすい」という話に関連して思い出した事がありまして。当社は現状98.5%リモートワークなんですね。それを1年半続けた時に「働く場所を決められない」状態って、実は基本的人権を奪っていたんじゃないかと気づいてハッとしたんです。働く場所とか時間なんて自分で決めていいじゃんと。もう大人なんだし(笑)これまで何の疑いもなくみんなを出勤させてたと思うと、恐ろしくなっちゃったんですよ。

村上:本当にそうです。僕もリーマンショックの時にロンドンで働いていたんですけど、オフィスに誰もいないんですよ。元々みんな多国籍でトラベラーだから、電話会議しかやらないし。お客さんも僕らも好きな場所で、バラバラに仕事ができることを体感してしまったんですね。それが日本だと、会議室に集合かけられて膝詰めでって...「あれ?なんで?」と。ロンドンでは時差があることが前提だから、予定も前倒しでパシッとやる。そのために必要な仕組みがあるというか、最終的にはちゃんとしたものできるし、膝詰めである必要性がなかった。リーマンショックで傷んだ日本の金融業界には、効率性の議論なんて受け入れられなくて、すごすご戻っていった経験があります。

中平:僕自身もずっと膝詰めでやってたんですけど、そうでなくても十分事業として成長してるし、40%程度は東京以外の人なので、そもそも物理的に集まれない。仕組みを疑う力って大事だなと改めて思いました。

村上:冒頭に「21世紀の価値観への構造転換に日本は乗り遅れてるから、非常に苦しい」みたいな事を言いましたが、今の話はその好例で。20世紀だからこそ成り立っていた価値観のひとつですよね。こういう話は多分山のようにあるんですよ。20世紀の価値観の中で、そうした方が良い理由がただあっただけ。

中平:本当にそうですよね。

村上:電話もFAXもなくて、論文もレポートも書けへんし営業もできひんとなれば、膝詰めは必然ですよね。それがインターネットも電話も発達したのに変わらずやってたってだけで。敢えて前向きな言い方をすれば、20世紀の固定的価値観への思い込みに対して、ウイルスが警告を鳴らしたとも言える。これから若い世代の人が質問してきますよ。「〇〇じゃなくて良くないですか?」って。新しい価値観もサービスになって広がっていくはずで。「なんでこうなんだろう」と気づくのって絶対若い人だから。「これでいいと思ってた理由教えてください」って言われたら上の世代は「ウッ」てなる。そういうことがバンバンおきる。

中平:若い視点でもあり、ウイルスという外的要因によってやっと気付かされるっていう。
世代による認知能力の違いですよね。

村上:ある種の物理の法則、慣性の法則がすごく強く働いて、それが当たり前になっちゃうんですよね。ルール自体を疑わない限りはその事に気づけない。これからは20世紀型のルールを疑える人が新しい社会のリーダーになっていくと思います。「言われてみたらその通りだ」ってみんなが言えば、ロケーションフリーになるしオンラインになる。素朴な疑問を持てる人がアントレプレナーシップを持ってリーダーになっていくと21世紀の社会への移行は速いはず。宣伝ではないんですが(笑)本にも今日話したようなエッセンスが多分に含まれています。こういうフィロソフィーを出来る限り多くの人にわかりやすく伝えたくて。そのあたり中平さんには共感いただけているなと思っています。

中平:資本主義や慣性の法則などのテーマでいくと、最近VCにお金集まりすぎのような気がしています。加速しすぎていろいろ歪めちゃうんじゃないかという懸念はあるんですよね。

村上:最終的にはユーザーが淘汰していくはずなので、ちょうど良い具合になるんじゃないかと思いますけどね。長い時間をかければね。

村上さんイギリス2L

▲ちょっと意外性のある1枚。遊び心を失わないことが、思考の若さを保つ秘訣なのかもしれません。

社会性のあるテーマを、長期的な目線で「やり切る」力

中平:そういえば、一番初めにお会いした時「よく10年も心折れずにやってこれましたね」って仰ってましたよね。

村上:僕がもう一つ投資するときに大事にしていることって、社会性以外に「人」なんです。社会性があることを長期的にやり切れる人がやればうまくいく。社会性があるのにうまくいかない理由って、時間軸が合わないかやり切れないかどっちかなんですよね。長い目でやり切れる人がやれば、いつか絶対成功するんです。テーマやフィロソフィーを考えたときに「やり切れるのか?」ということが最大論点になる。敢えて言葉を選ばずにいうと、芽が出ないのに10年間やり続けてきたこと、これは本当にすごい。「なんで3人とも、やめずにやってこれたんですか?」って第一声で聞いた記憶ありますよ。

中平:そうでした(笑)それに対しては僕ら、常に挑戦し続けていただけで、今と変わっていないんですけどね。

村上:3人のグリット(やり抜く力)や仲の良さ、チームワークとかそういうものももちろん体現してると思うんですけど、本質的に思ったのは「この人達って目先のちょっとした成功にモチベーションを感じるタイプじゃないな」と。

中平:うんうん。

村上:短期的な結果にモチベーションが左右されるケースは多いけどガラパゴスの皆さんはそうではない。今より結果が出ない時期があってもやめなかったということは、その時期を「過程」として捉えているという事。多分中平さんをはじめ、お三方のパッションの源泉がすごくピュアで長期的である、それを裏返しているんじゃないかな。そんな人たちなかなかいないですよ。1人ですら難しいのに、それを創業メンバー3人でチームワークを崩さずに続けてきたこと、かつ10年という長期間やっていたことにダブルの驚きがありました。

GSB_村上さん2-3

中平:私の祖父は、昭和記念公園を作った人なんです。だから、それを越える大きなものを作らなきゃいけないという使命感を勝手に持っているんですよね。他の2人に関しても、きっと前世が兄弟だったんじゃないかと思うほど相性が良いんです。だから、挑戦し続けることが僕たちにとっては自然なことというだけなので、そんなに驚かれることなのか?というのが正直な気持ちです。

村上:社会性のあるテーマを持っている人と、時間軸を含めた目線を持っている人がセットで実在しているのがガラパゴスですよね。僕自身が株主としても、経営の伴走者としてもコミュニケーションで常に意識したいのは「短期と長期のバランスをどう保つべきか」ということ。組織が大きくなってそれまで維持されてきたものが崩れ始めると、中平さんの良さも組織の良さも会社の良さも壊れる可能性があるから。それを防ぐために、今やっていることに対して長い目線を保つことを僕自身意識して、一番に中平さんを支えていきたいと思ってます。

中平:それが本当にありがたくて。先日もその距離感を大事にしようというお話をされていましたよね。これから経営をしていく上で3年5年、10年先を見据えようと仰っていただけることで、常に忘れてはいけない原点に立ち返るんです。そういう関係性がすごくありがたい。とはいえ僕らはまだシリーズAで、ここからさらにプロダクト・マーケットフィット(サービスが最適市場に受け入れられている状態)を目指して拡大しようというフェーズ。シニフィアンさんのターゲットは本来その後の段階にあるスタートアップだと思いますが、それでもなお、我々の仲間になっていただけた背景にはどんな判断があったのでしょうか。

村上:社会性のあるテーマがあり、それを長期的に実現する意思と能力をセットで持っているケースって必ずしも多くないのが実態だと思うんです。僕らとしてはこのフェーズで投資するのはすごくレアなんですけど、最初からしっかり伴走することを想定していることもあり、リスクは実は高くないという判断です。アーリーやシード期のスタートアップに強いVCからの指導を受ける環境も作られているけど、どちらかというと僕ら自身は長期的な目線でサポートをしていく役割なのかなと。

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目の前にある改善を重ねつつ、価値や良さを毀損しないこと。Googleなんかはイメージしやすいけど、良い会社って最初からいいものを持ってるんです。伸ばしている過程の中で後手ばりになって、気づいたら良さを失うようなことは避けたいじゃないですか。そうならないように見守りながら、伸びてきた段階でどうするのか、苦しい時に安易な選択をしないためにはどう考えるべきなのか。組織的にもファイナンス的にも安易な策を選ばないように、議論しながらサポートしていくつもりです。

マーケティングへの打ち手や給与・単価を上げる下げるなどの議論があるとして、それが安易なものなのか、長期的視点のフィロソフィーに則ったものなのか。常に時間軸によってトレードオフなことがあると思うので、そこを議論していく。中平さんにそういう視点を提供していくことで、判断の質をあげていって欲しい。

中平:トレードオフの視点はすごく大事だと思っています。僕らの良さって社会性がある大きな課題に野心的に挑戦していることだと思うんですよ。フィロソフィーとミッションとビジョンでそれを規定しているので、常に立ち返ろうぜって話にはなると思いますし、失われない自信はあるんですけどね。

村上:中平さんはそういう方だと、僕も勝手に期待してます。うん、そんな気がする。

中平:金銭的欲求も、そもそもあまり無いですし。何か大きなテーマを持って、それと向き合えてることこそが生きる幸せなんじゃないかと僕は思っていて。

村上:そういう時に感じる幸せって替えがたいですからね。

中平:本当にそうなんですよね。10年間挑戦してきて確かに「暖簾に腕押し」状態の時もあって。それが今は次々に来る大きな壁をガツガツ倒している状態で、すごく充実しています。

村上さんゴルフL

▲長年のゴルフ好きでもある村上さん。自らの技量をベースに戦略的判断を要するメンタル競技、かつ距離と小技がどちらも欠かせないことは、経営観に通じるものがあります。

ビジョナリーなテーマを実現する、現場の人と多様性

ーー最後に、村上さんの目から見てガラパゴスにはどんな人材が必要だと思いますか?

村上:ミッションやビジョンを大きく描くOSやカルチャーはすでにインストールされているから、後は現場・オペレーションを安心して任せられる、責任を持って自走できるOSやスキルを持つ人材に来てもらえると良いと思います。そういう方々が経営幹部候補になっていけば、トップも強くなりますしね。「現場」というと、今まで話していたビジョナリーなテーマと若干裏腹に聞こえるかもしれないけれど、活躍できる土壌がここにはありますから。中平さんをはじめ経営陣がパフォーマンスをしっかり評価する仕組み、フェアに評されるカルチャーがあるから、そういう強みに自信がある方にはすごく相性がいいんじゃないかな。

あとはもう1つ、ぜひ多様な人を採用して欲しい。ジェネレーションとかジェンダー、違う経験を持ったバックグラウンドの人たちが活躍できる組織になると、すごく強いという気がしています。中平チルドレンみたいな人ばかりにならないようにね(笑)

中平:多様性は最大のテーマだと思っているので、しっかり取り組んでいきます。村上さんのような素晴らしい人格者と議論できるのがガラパゴスの魅力でもありますので、ぜひ様々な方に挑戦していただきたいです。

村上:経営を議論できる方がたくさん入ってきたら、僕も楽しいです。

ーー本日はありがとうございました!

村上さん登山L

▲北アルプスの女王・燕岳での1枚。村上さんとシニフィアンは、ガラパゴスが高い山に登るためのシェルパのような存在です。

▲村上さんのnoteはこちら。本稿の議論の背景にもなっている様々な論点が展開されています。ぜひご覧ください。

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(文責:武石綾子・髙橋勲)