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最後のサンタクロース




ツイートをした時からちょっとした違和感はあった。

何か違わないか?

場面か、台詞か、なんだろう。

何かが違う気がする。

たまたま今日母親に会ったので、当時の思出話を出来るだけ自然な形で会話に混ぜて聞いてみた。


35年の時間が偉大なのか、母がそうなのかは知らないけど、あっはっはあったあったそんなん、あたし見てたし、と言いながらレンジで温めた大吟醸をシワの目立つ指で握り締めて母は話してくれた。


ちなみに父は、このエピソードのクリスマスから暫くして末期の癌で入院し、余命3ヶ月というフリーフォールの様な宣告をされながら、そんな周りの哀れむ視線を鼻で笑うようなぶっちぎりの過酷な最後の時間を一年半も過ごし、当時小学生だった僕ら兄弟に過激な印象の最後を見せつつ逝った。


まあ、そんなクリスマスも世の中には溢れてるんだろうな。


と言うような、よくある話だ。


「お父さん、「こんばんわ」って言ってないのよ。あんた記憶間違いしてる。あんたが酒に強いのは完全に私の家系ね。お父さんはお酒全然飲めなかったの。意外でしょ。お祖父ちゃん覚えてない?日本酒コップ一杯で真っ赤っかーで寝てたでしょ。その血を引いてるのねお父さん。ただ、あの時は商売上お付き合いを断れなかったのね。お酒を飲むことは仕事だったの。理不尽でも何でもそういう時代はあったの。お父さんはいっつも夜中に口もきけないくらい酔っ払って帰ってきて、少しだけ寝て仕事をしてた。いつか体がおかしくなることは誰にだって分かってたから皆共犯ね。あの晩は特に酔っ払ってて、ちょっと前から具合も悪そうだったからあたしも起きて待ってたの。玄関で二回転んでトイレで吐いて、それでもあなたたちの寝室に行こうとするから怖くって仕方なくってね。ついてって後ろで見てたの。よろけてあなた達に倒れ込もうとしたら突き飛ばすつもりで。ふらふらと足場を確かめながらお父さんはやっぱりあなたの手をを踏んづけて、あはは、あなたは痛かったんでしょうねビックリした顔を上げてお父さんを見てたの。そしたらお父さん、「こんばんわ」じゃないわよ。「ハロー」って言ったの。サンタクロースだから。あたしそれはめちゃめちゃ面白くって口を塞いで笑うの我慢するのに必死だったけど、あなたがね。あなたが、ビックリした顔からゆっくりにっこり笑ってまた寝たの。それを見たら急に泣けちゃって。お父さんの様子はちょっと前から変だったし嫌な予感も後から思えばしてたしね。でも、あなたがまた寝た後に振り返って「やったぞ」みたいな顔で笑ったお父さんの顔がとっても嬉しそうで。嬉しそうで。そんな顔ずいぶん久し振りに見たから何でか泣いちゃってね。あの時もう末期だったはずだから辛かったと思うのよ。ただあの顔は35年経っても忘れられないわね。死んだ人ってズルいよね、若いまんまで。こっちはもう70過ぎちゃったわよ。あんたも、おっさんになっちゃって。」


※「熊本弁(八代地域方言)通訳」


「おとさん、「こんばんは」ては言うとらん。あんた間違うとる。あんたが酒に強かとは、あたしん家系たいね。おとさんな、いっちょん飲めらっさんかった。知らんやったろ。じいちゃん覚えとらんね。日本酒コップ一杯でっちゃまっかっかーになってから寝とったろーもん。そん血ばひいとったったいね、おとさんな。ばってんがあん時は商売のあるけん付き合いば断れんかった。飲み会は仕事やった。合わんばってんが時代たいね。おとさんは毎晩喋られんくらい酔っ払ってから帰ってきて、ちっと寝てから仕事しよった。そんうち体ばいわすっとは皆知っとったけん共犯たい。あんクリスマスの晩な、余計に酔っ払っとったし、ちっと前かい具合の悪しゃしとったけんあたしも起きて待っとったと。玄関で二回転ばしてからトイレで吐いてからたい、そいでもあんた達の寝とるとこに行こうかするけん、恐ろしゅーして。後ろかい分からんようについていったと。よろけてあんた達につこけるなら突き飛ばそうて思てから。ふらふらしてから、やっぱおとさんあんたば踏んでからたい。あはは、あんたは痛かったっだろね、真ん丸か目ばしてからおとさんば見たったい。したらおとさん「こんばんは」じゃなかよ「ハロー」て言わしたったい。サンタクロースだけん、英語でハローたい。あはは、夜ばってん「ハロー」たい。必死たいね。あはは。あたしゃそいの可笑しゅーして可笑しゅーして。我慢しとったっばってんが、あんたがね、ビックリした顔ばしとったとけど、すぐに笑てから。笑てからまた目ば閉じて寝たったい。笑たまんまの顔で。したら、なんか急に泣けてからね。ちっと前からおとさんの具合はおかしかったし、今から思えばイヤーな感じもしとったしね。ばってんあんたの笑うた寝顔ば見てから振り返ったおとさんが「やったろが」て顔ばしとって、目ーの無くなるあんたの寝顔とおんなし笑ろた顔ばしとって。そいば見たら涙の出て涙の出て。そやん顔ば見たとは久し振りだったけんね。あん時もう癌は末期だったけん、きつかったと思うとよ。ばってんあん笑た顔は35年たったって忘れられんたいね。死んどるもんはずるかー。いつまっでん自分ばっか若かったい。勝手に時間ば止めてから。不満ば言うたっちゃ相手は三十半ばの兄ちゃんばい。言われんたいね、こっちは七十過ぎたばあちゃんやけん。ま、ばってん。おっさんになったあんたと酒ば飲みよるとやけん、どっちが幸せかはわからんたいね。おとさんもあんたと飲みたかったろ。早よ死ぬけんたい。     よー見たら、あんたもおっさんになったねえ。おとさんの方が、まだ若かばい。」



南国九州にも、明日から雪が降るらしい。


まあ、ただそれだけのクリスマスの話で。


※追記

親父は五冊の闘病日記を残してました。
亡くなる当日、最後のページには達筆だった面影もない崩れた汚い字で「なんで」と書かれてました。
大きな発表会や大事な日、うちの息子達はそのノートを持っていきます。



勇気が、出るのだそうです。



今年もあと一日。

良いも悪いも飲み込んで、またお日様を見上げて笑う来年を迎えましょう。


よい、おとしを。

心から。

サポートの分だけ必ず成長致します(いろいろ)