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【アカネ落城 9】

何をしても上手くいかない。

塞ぎ込んだ時に……
手を差し伸べるように、甘い言葉を、優しく囁かれたらどうだろうか。

その相手に対しての評価は高まるのが自然。
弱っている人間は、つけ込み易い。

だから、落ちやすい。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

茜は、別れ際に棗に抱きしめられた。
驚いたのと同時に、胸が高鳴る。

「……好き。」

雑踏に混じりながら囁かれた棗の言葉は、茜の全身に染み渡る。
茜は頭が真っ白になったーー

「俺が茜さんを、癒してあげる。」

そう言って、身体を離すと棗は茜に唇を重ねる。
茜は棗の勢いについていけずに、時間が止まったまま、ただ……棗の唇の温度を感じていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

そんな、棗の若さに圧倒された茜の話を聞くと、椿は声を大にした。
「やべぇな!!」
茜は「と、ときめいてしまった…!」と、顔を赤らめる。

棗は可愛い顔をしているし、考えも大人びていた事と、年下と付き合った事がない茜には新鮮だった事もあり、茜は棗の彼女になった。

しかし、まだ知らない棗の若さが露見する事は予知していなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ずっと一緒にいたい棗は、茜の部屋で半同棲のような状態になる。

そして、眠る前と目覚めた時に、愛しい茜の肌を味わう棗。
茜への愛しい気持ちを、棗は昼夜問わず吐き出す。

率直に言うと、茜の性欲は強い。
だから、棗のその行為に嫌な気はしない。
なので、そういう面では棗は茜を満たしていた。

ただ、茜はあまりに一緒にいる時間が長すぎて
……棗に疲れ始めていた。

仕事で疲れた身体で、棗と時間を忘れて快楽の時間を過ごし汗をかく。

茜が今欲しいのは、独りで過ごす時間だった。

棗は若く、体力もある。
だから、棗は茜が息を切らすまで、棗が満足するまで責められる。
茜も満足はするが……しかし、体力はついていかない。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「棗……ちょっと、うちに入り浸りすぎない?」
茜は1週間まるまる実家に帰っていない棗に言った。
「ご、ごめん。」
棗は眉尻を下げると「明日は帰るけど、茜……寂しくさせちゃうね。」と零した。

茜はコレに同意しなかった。
「帰らないと、ご両親が心配するでしょ?」
寂しくはないと言わない代わりに、聞こえが良いであろう言葉で返す茜。

しかし、言わないと分からない棗は「茜が寂しくなると思って。」としか言わない。
棗の発言に……茜は呆れた。

「私は大丈夫だから、ちゃんとご両親を心配させない様に帰って。」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

結局、コレを繰り返す棗に茜は愛想を尽かす。
茜に別れを告げられ落ち込む棗。
椿が棗を気にかけてフォローするが、茜が思っていたのは……

「結局、誰も好きにはなれなかったな……」

それを聞いた椿は、棗にはこの言葉は伝えず、胸にしまい込んだ。

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