【エッセー】回想暫し 14 金沢の坂
六十余年前、城のなかに大学があるというので金沢にやって来た。大学の寮に住んで学生時代をおくり、その地は第二の故郷となった。卒業後、愛知県や三重県で暮らした。就職、結婚、子育て、退職と、人生の三分の一余、最も変化に富む時期の舞台は三重であり、第三の故郷になった。
晩年、義母の介護のため金沢に舞い戻った。街は緑が多く、どこを歩いても綺麗であり、町並みや疏水には昔と変わらぬ情緒が漂っている。平々凡々であった人生の終わりに第二の故郷に再び住むことになったのは、よき巡り合わせであっ