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【エッセー】回想暫し

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小説の合間に公開するエッセー集
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記事一覧

【エッセー】回想暫し 昭和の妖怪(3)中

四  一九五八年五月に行なわれた衆議院選挙の結果は、岸を喜ばせた。自民党は二十から三十…

芝豪(小説)
1か月前
7

【エッセー】回想暫し 昭和の妖怪(3)上

一  一九五七年六月十六日、岸は羽田から訪米の途に就いた。日本の新首相は、できるだけ速…

芝豪(小説)
1か月前
7

【エッセー】回想暫し 18 昭和の妖怪(2)

一  岸は、戦犯容疑者として収監された翌年早々、公職追放の処分を受け、獄窓を出ても、いま…

芝豪(小説)
1か月前
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【エッセー】回想暫し 17 昭和の妖怪(1)

一  歴史を振り返るとき、同時代人ならば、AならAという人物を評価するにあたって、点数…

芝豪(小説)
2か月前
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【エッセー】回想暫し 16 クラシック音楽

 中学校の音楽のI先生が、  ──一週に一回はクラシック音楽を聴きなさい。その都度、曲名…

芝豪(小説)
2か月前
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【エッセー】回想暫し 15 輪扁(りんぺん)の物語

『荘子』第二冊天道篇第十三(金谷治訳注 岩波文庫)に出てくる話である。ある日のこと、堂の…

芝豪(小説)
2か月前
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【エッセー】回想暫し 14 金沢の坂

 六十余年前、城のなかに大学があるというので金沢にやって来た。大学の寮に住んで学生時代をおくり、その地は第二の故郷となった。卒業後、愛知県や三重県で暮らした。就職、結婚、子育て、退職と、人生の三分の一余、最も変化に富む時期の舞台は三重であり、第三の故郷になった。  晩年、義母の介護のため金沢に舞い戻った。街は緑が多く、どこを歩いても綺麗であり、町並みや疏水には昔と変わらぬ情緒が漂っている。平々凡々であった人生の終わりに第二の故郷に再び住むことになったのは、よき巡り合わせであっ

【エッセー】回想暫し 13 藤野厳九郎と魯迅

一  ずっと昔、JR芦原温泉駅に降り立ったとき、駅前に由緒ありげな古い木造家屋があるのに目…

芝豪(小説)
2か月前
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【エッセー】回想暫し12 北方星雲師

一 『常山紀談』巻之十八(森銑三校訂 岩波文庫)に次のごとき話がある。中院通茂公(江戸中…

芝豪(小説)
2か月前
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【エッセー】回想暫し11 ジラード事件

     一  事件は、一九五七年一月三十日に起きた。所は、群馬県の県庁所在地前橋市か…

芝豪(小説)
3か月前
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【エッセー】回想暫し10 黄口小雀

黄口小雀  日々、文章を刻みながら庭に目を遣る。あるいは、庭に目を遣りながら文章を刻む。…

芝豪(小説)
6か月前
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【エッセー】回想暫し9 音を文章で表わす

 絵画を文章で描くことはよくあるが、いくら気張っても、当該絵画を一見することがあれば事足…

芝豪(小説)
6か月前
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【エッセー】回想暫し8 鳩山一郎とシベリア抑留者最後の帰国

 一九五六年六月二十二日、時の首相鳩山一郎が北海道入りした。私は札幌の小学校六年生であっ…

芝豪(小説)
7か月前
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【エッセー】回想暫し6 札幌創成川沿いの教会

 幼稚園と小学校時代、毎日曜日、創成川沿いの教会に通った。幼稚園と教会が一体であったので、卒園後もそういう仕儀となった。創成川は札幌を東西に分ける起点であるが、当時はありふれた小さな流れにすぎず、情緒を望むべくもなかった。  もう40年もの昔、家族を連れて北海道旅行をしたとき、札幌を訪れた。有名な時計台の近くにその教会はかつてあった。まだ存在しているのか否か判らぬままにそこまで歩いた。すると、あったのである。古色蒼然として、日常使われているふうにはとうてい見えないが、とにかく