芝豪(小説)

北海道生まれ。金沢大学法文学部卒業。1977年から同人誌「海」にて創作活動開始。199…

芝豪(小説)

北海道生まれ。金沢大学法文学部卒業。1977年から同人誌「海」にて創作活動開始。1994年に『士魂の海』(海越出版社)でデビュー。 主な著書 隗より始めよ(祥伝社) 小説王陽明 上下(明徳出版社) 天命 朝敵となるも誠を捨てず(講談社) 朝鮮戦争上下(講談社文庫)ほか

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  • 【エッセー】回想暫し

    小説の合間に公開するエッセー集

  • 「北匈奴の軌跡 草原の疾風」後編

    「北匈奴の軌跡 草原の疾風」の第六章から第九章をマガジン価格で有償公開しています。(更新中)

  • 「北匈奴の軌跡 草原の疾風」前編

    「北匈奴の軌跡 草原の疾風」の第一章から第五章を無料公開しています。(更新中)

最近の記事

【エッセー】回想暫し 昭和の妖怪(3)中

四  一九五八年五月に行なわれた衆議院選挙の結果は、岸を喜ばせた。自民党は二十から三十の議席を失うだろうと予想されていたにもかかわらず、蓋を開ければ、二百八十七議席を獲得。社会党は百六十六議席。いわゆる五五年体制開始後のはじめての総選挙で、勝利の女神は自民党に微笑んだ。  されど、米国政府の資金援助があったからには、その結果は当然とも言える。投票率七六・九九パーセントというのは、驚異的な数字ではあった。  政権運営に自信を持った岸は、安保改定の審議、批准を円滑に運ぶため、

    • 【エッセー】回想暫し 昭和の妖怪(3)上

      一  一九五七年六月十六日、岸は羽田から訪米の途に就いた。日本の新首相は、できるだけ速やかにワシントン詣でをし、自身を売り込むとともに米国の意向を押し戴く。  人によっては、中国古代王朝にたとえて、朝貢なぞと自虐的な言の葉を用いる。帰国した首相は、例外なく米国に対して借りてきた猫のようにおとなしくなる。米国の皇帝とは、それほど威厳に満ちた存在なのである。  岸は一九五五年八月、重光外相とともに臨んだダレス国務長官との会談で、重光がまともに相手をしてもらえなかったあの悪夢の

      • 【エッセー】回想暫し 18 昭和の妖怪(2)

        一  岸は、戦犯容疑者として収監された翌年早々、公職追放の処分を受け、獄窓を出ても、いまだ公職追放の身であったゆえ、政治的な自由を完全に回復したわけではなかった。同処分の解かれるのは、サンフランシスコ講和条約の発効を待ってからで、一九五二年四月二十八日のことである。  岸は自由を再び手にして、何を考え、何を思ったか。少なくとも、岸にはおのれが戦争へ導いたことへの深い反省は見られない。  岸は、かりに、省みなければならないものがあるとするなら、それは日本が聖戦に負けたことだけだ

        • 【エッセー】回想暫し 17 昭和の妖怪(1)

          一  歴史を振り返るとき、同時代人ならば、AならAという人物を評価するにあたって、点数に迷いはあっても、合格か不合格かの判断にさほどの困難は感じないであろう。が、世代が後ろに行けば行くほど、Aの合否判定は難しくなる。  加えて、歴史の改竄が跡を絶たない。極端な場合、史上最低の宰相Aを史上最高のそれと臆面もなく持ち上げたりする。改竄の影響が社会に浸透すると、時代を同じくした人なら、Aが史上最高の宰相と聞いて、 「冗談じゃない。いったい、だれがそんな莫迦なことを言った」  と

        【エッセー】回想暫し 昭和の妖怪(3)中

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        • 【エッセー】回想暫し
          20本
        • 「北匈奴の軌跡 草原の疾風」後編
          11本
          ¥750
        • 「北匈奴の軌跡 草原の疾風」前編
          11本

        記事

          【エッセー】回想暫し 16 クラシック音楽

           中学校の音楽のI先生が、  ──一週に一回はクラシック音楽を聴きなさい。その都度、曲名とともに日付と指揮者と管弦楽団の名をノートに記すように。そのうち有名な旋律が頭に残り、クラシック音楽が何よりも好きになるでしょう。  と、言われた。  子どもというのは素直なものである。何が何だかわからないままに難しい音楽を聴くべくラジオの番組表を調べ、その時刻になるとラジオのスイッチを入れるようになった。当初は交響曲と協奏曲の違いも知らなかった。スッペの軽騎兵序曲、モーツァルトのトルコ行

          【エッセー】回想暫し 16 クラシック音楽

          【エッセー】回想暫し 15 輪扁(りんぺん)の物語

          『荘子』第二冊天道篇第十三(金谷治訳注 岩波文庫)に出てくる話である。ある日のこと、堂の下で輪扁が椎と鑿を使い、堂の上では斉の桓公が書を読んでいた。前者は車輪作りの名人である。後者は中国春秋時代の覇者として知られ、さまざまな奇談の持ち主であるが、とりわけ死してのち、本人の知らぬところで巻き込まれた悲惨な事件には背筋が凍る。さて、輪扁が道具を置いて堂にのぼり、桓公に語りかけた。 「おたずねしますが、殿さまのお読みなのは、どんなことばですか。」 「聖人のことばだよ。」 「聖人は生

          【エッセー】回想暫し 15 輪扁(りんぺん)の物語

          【エッセー】回想暫し 14 金沢の坂

           六十余年前、城のなかに大学があるというので金沢にやって来た。大学の寮に住んで学生時代をおくり、その地は第二の故郷となった。卒業後、愛知県や三重県で暮らした。就職、結婚、子育て、退職と、人生の三分の一余、最も変化に富む時期の舞台は三重であり、第三の故郷になった。  晩年、義母の介護のため金沢に舞い戻った。街は緑が多く、どこを歩いても綺麗であり、町並みや疏水には昔と変わらぬ情緒が漂っている。平々凡々であった人生の終わりに第二の故郷に再び住むことになったのは、よき巡り合わせであっ

          【エッセー】回想暫し 14 金沢の坂

          【エッセー】回想暫し 13 藤野厳九郎と魯迅

          一  ずっと昔、JR芦原温泉駅に降り立ったとき、駅前に由緒ありげな古い木造家屋があるのに目がとまった。何だろうと内を覗いて驚いた。藤野厳九郎の旧宅が移築されて、藤野厳九郎記念館になっていた。藤野厳九郎と言えば、魯迅の「藤野先生」に描かれた本人である。だれもが、あの善意の固まりのような人に古きよき日本人を見るはずである。私も然り。  一九〇四年(明治三七)、藤野は仙台医専教授として中国からの留学生周樹人(魯迅)に解剖学を教える。両人の交流については、「藤野先生」に懐かしくも爽

          【エッセー】回想暫し 13 藤野厳九郎と魯迅

          【エッセー】回想暫し12 北方星雲師

          一 『常山紀談』巻之十八(森銑三校訂 岩波文庫)に次のごとき話がある。中院通茂公(江戸中期の公家)が青蓮院の宮であったろうか、幼い宮の後見をしていたとき、常に碁、双六を遠ざけた。取り立てて悪いことではないが、つい慣れ親しんで空しく月日を過ごし、学問の志を怠る因となるゆえと。  また、某人が尺八の名管を持ち来たり、人々が逸品なりと代わる代わる手に取っていたところ、通茂公がそれを見かけてだれがかような物をと、当該の尺八を柱に叩きつけて砕いた。公にとっては、尺八も、碁や双六と同類

          【エッセー】回想暫し12 北方星雲師

          【エッセー】回想暫し11 ジラード事件

               一  事件は、一九五七年一月三十日に起きた。所は、群馬県の県庁所在地前橋市から北西へ八キロほど離れた榛名山(標高一四四九メートル)東麓に広がる米陸軍相馬ヶ原演習地(相馬村。現榛東村所在)。米陸軍名はキャンプ・ウィッティア(ウェアーとも)と言うが、事件の翌年、同軍はこの地を撤収している。  その日午後一時五十分ごろ、米陸軍第一騎兵師団第八騎兵連隊第二大隊F中隊所属のウィリアム・S・ジラード三等特技兵(二一)が、空薬莢拾いをしていた主婦坂井なかさん(四六)を射殺

          【エッセー】回想暫し11 ジラード事件

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第九章(3)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」(後編・第六章~第九章)は有料マガジンでまとめてご購入いただく方がお得です。ご注意ください。 五

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          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第九章(3)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第九章(2)

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          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第九章(2)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第九章(1)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」(後編・第六章~第九章)は有料マガジンでまとめてご購入いただく方がお得です。ご注意ください。 第九章 草原のいま 一  ジュアルは、ゴンクゥイの先導のもと、砂漠の地を北西へ向かって馬を歩ませている。かつて幼児だったころの砂漠行とは逆向きである。

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          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第九章(1)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第八章(2)

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          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」(後編・第六章~第九章)は有料マガジンでまとめてご購入いただく方がお得です。ご注意ください。 第八章 草原の子の心 一  少し休憩を取ったあと、三人は話し合いを再開した。 「いよいよ第二幕のはじまりね。時は現代へ移行。世代交代は進み、主役はジュアルとわたし。敵役はゴンクゥイ。この幕では、ジュアルとゴンクゥイの決闘場面はあるのかしら」  と、リン。

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          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第八章(1)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第七章(3)

          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」(後編・第六章~第九章)は有料マガジンでまとめてご購入いただく方がお得です。ご注意ください。 五  ディガルは砂漠に縁がある。砂漠に倒れていたジュアルを救ったのは、その最たるものであるが、このほかにも自身が若いころ、砂漠で遭難したことがあった。

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          「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第七章(3)