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毎日は映画のような一コマ ひょんなことから始まるわたしの物語

映画や漫画のあらすじでよく見かける、「ひょんなことから」という表現。物語が動き出すための大事なきっかけであるその言葉はそんなふうに省略されながら、妙な説得力をもっています。それは、わたしたちの日常のなかにもたくさんあって、とても身近なものだからなのかもしれません。

例えば、わたしの人生において「ひょんなこと」の代表といえば、結婚式と海外旅行です。友人の結婚式に出席するついでにちょっと旅行を、という話はよくありますが、わたしの場合、何故かいきなり海をこえてしまいます。国内では地元以外の結婚式に出席したこともないのに、です。

きっかけはどこから

サントリーニ島

わたしはこれまで4回、結婚式に出席するために海外旅行をしています。記念すべき1回目はサントリーニ島というエーゲ海に浮かぶ島。シンプルな白い壁と青い屋根の建物に囲まれた町で撮影した写真は、どれを見ても写真集のような仕上がりでした。そこに写っているモデルがわたしでも、です。やっぱりロケーションって大事(笑)。

誘ってくれたのは大学時代のアルバイト先で出会ったせっちゃん。幼なじみがそこで結婚式を挙げるので、ついでにヨーロッパを旅行してみないかと言うことでした。もちろん、わたしも結婚式に出席するというオプション付き。ちなみにその幼なじみとわたしは、まったく面識がありません

せっちゃんも最初は共通の友人と一緒に行くことを考えていたらしいのですが、結局、みんな出席できないということに。せっちゃんとしては大切な友人の結婚式になんとか出席したい。でも、ひとりで行くのは不安。そこで、わたしに声をかけたのです。

「糸さんは初対面の相手でも全然気にしない、誰とでも話せるでしょ。それに一週間一緒にいて、わたしが気を遣わなくてすむからさ」

あと、わりと時間に余裕がありそうという点も決め手だったらしい。

大学卒業後、大学院へ進むことを口実に就職もせず、勉強はそこそこ、アルバイトばかりしていた当時のわたし。あっという間に20代が半分過ぎて、きちんと働いている同じ歳の他の友人と比べれば時間に自由はありました、確かに。でもその分、お金はなかったけど。

とは言いつつ、ヨーロッパ旅行に出発する頃にはちゃんと平日5日間、きちんと働いてたし。そのおかげで「ちょっとヨーロッパ行ってくるわ」なんて言えるくらいのお金はあったし、一応。

友人の友人、しかも会ったことのない人の結婚式に出席するための海外旅行。もちろん、結婚式に出席しない選択肢もありました。けれどそれは、その時間をひとりで過ごせるくらいわたしが旅慣れていたら、の話です。わたしが行ったことがある国は韓国だけ。このレベルでいきなりヨーロッパなんて、田舎者で世間知らずのわたしにはハードルが高すぎます。

それでも、この機会を逃せばヨーロッパなんていつ行けることやら……。いや行けないかも。新婚旅行のためにとっておこうなんて夢も義理もないわけだし。そんなわたしの決め手になったのは、せっちゃんのお母さんの言葉でした。

「お母さんもあの子が一緒なら安心ねって言ってたよ」

最高の褒め言葉じゃないですか。

そんなわけでわたしたちは初めてのヨーロッパ、初めての海外ウェディング、初めてのふたり旅というどこまでも初めてづくしの旅行をしました。フランス、ギリシャ、サントリーニ島、そしてトルコ。まだスマホもWiFiもない、インターネットさえ使い慣れない時代です。仕事が終わればせっちゃんの家に寄って、頭をくっつけるようにしてふたりで本を読みながら旅行の計画を立てました。あの時間さえも、今では良い思い出です。

海外ウェディングといえばハワイ

2回目もやはり、友人の友人の結婚式に出席するため、今度はハワイに行ってきました。少し違うのは初対面ではなく、2度ほど面識があるという点でしょうか。いうならば、「ほぼはじめまして」。

その友人もやはり一緒に行ける共通の友人が見つからず、同じように、ひとりで行くことに不安を抱えていました。そこでわたしの出番です。なにせ、すでに実績があるわけで、彼女にも前回の旅行のことを話していましたから。わたしとせっちゃんの「ひょんなこと」が、また別の誰かとの「ひょんなこと」につながった、そんな不思議なご縁を感じました。

前回は日本で買ったワンピースを持って行きましたが、せっかくなので現地で色違いのアロハドレスを買いました。ハワイといえばハイビスカス。全体的にハイビスカスの花でうめつくされた、青色とピンク色のアロハドレスを着て結婚式に出席しました。そのことを花嫁のお母さんはとても喜んでくれて、家族で結婚式の話をすると必ずその話になるのだとか。その話を聞いて、わたしも嬉しい気持ちになりました。

さて、3回目にしていよいよ自分の友人の結婚式に出席する機会がやってきました。ここまで、まるで何かのゲームのようにわたしは花嫁との関係を少しずつレベルアップさせ、ついに誰も介さず直接連絡が取れる間柄にまできたわけなのですが。面白いことにわたしはこのとき、結婚式に携わる仕事についていました。

わたしは「ひょんなこと」から結婚式の司会の仕事に惹かれ、平日は事務、土日祝日は結婚式の司会の仕事というダブルワークをしていました。生きるために必要な収入を得るための仕事と、好きなことを仕事にすること。そのふたつの場所をわけること。不器用なわたしにとってその選択は、とても自然なことでした。

そして、結婚式の司会の仕事をするようになって、わたしは結婚式そのものが好きなのだと改めて気がつきました。誰かの顔色を心配することもなく、大きな声で「おめでとう!」と言える空気のある場所。ここに国境はありません

ついに仕事の申し出が!

雨の心配もふきとばした、タイでのガーデンウェディング

そして、4回目。わたしは「ひょんなこと」から、友人の結婚式の司会をするためにタイへ行くことになりました。人生って本当に面白い。ひとつひとつの出来事は点と点で、つながっていないように見えるのに、実はつながっている、と感じられるのだから。

わたしの友人は仕事でタイに赴任していたとき、現地の日本の会社に出向していた旦那さんと出会い、遠距離恋愛を経て結婚することになりました。新婚生活の拠点はタイ、バンコク。そこで、日本にいる自分たちの家族にタイへ来てもらい、結婚式を挙げることに。そんなふたりの理想は日本で一般的に開かれている結婚式と披露宴をタイですることでした。

「わたしたちは60人くらいよびたいんだけど、仲介業者の人から30人以上のパーティーはやったことがないって言われちゃって。しかも、『司会はうちのスタッフが対応します』って言われたの。でも、プロじゃないって言うからちょっと不安でさ……」

彼女が何に不安を感じているのか、わたしにはよくわかりました。わたしはこれまでの海外ウェディングで一度も司会者にお会いしたことはなく、まさしく現地スタッフが対応している姿を見ているからです。良く言えばカジュアルでアットホーム、けれど日本の結婚式を知っている人にとってはどこか物足りない。特に3回目のときは結婚式を執り行う側の視点をもって出席しているので、よりいっそうそのことを感じていました。

タイにはふたりにとってご縁のある方や会社関係の方がいます。彼女たちはそういった方たちを招待し、きちんとやりたいのです、結婚式も披露宴も。けれど、現地のスタッフにはその経験がない。

日本の結婚式をよく知っていて、なおかつスタッフに指示が出せる人が必要でした。そこでわたしの出番となるわけです。出席者とはいえ海外ウェディングの経験もある上に、花嫁の友人なら話ははやい。

司会の話を持ちかけられたとき、瞬間的に楽しそうだと思いました。考えるだけでワクワクします。けれど、わたしはひとりで海外旅行をしたこともなければタイに行ったこともありません。くわえて日本語しか話せない。結婚式にたどり着くまでの現実的な不安がわたしの前に立ちはだかっていました。そんなわたしが心を決める決め手になったのは、この一言でした。

「夫となる人がぜひお願いしたいと言ってます!もちろんお仕事として引き受けてほしいなと♡」

夫が!!一度も会ったことのない人が!!

旦那さんは、「彼女の友人なら大丈夫」と信じて任せてくれたのです。ふたりの大切な結婚式を。ふたりにとって大切な人たちをおもてなしする、結婚式の司会の仕事を。そこに、わたしは夫婦となるふたりの絆を感じました。それなら、わたしも信じてみよう、自分を。彼女たちが信じてくれた、わたしを。

2019年8月、わたしはひとりで旅に出ました。大切な友人の結婚式の司会をするために。

会場は映画の舞台にもなった有名なホテルでした

わたしが動けば物語も動く

いつだって、わたしが旅に出る理由やきっかけは、最初からわたし自身が持っているわけではありませんでした。誰かと出会うことでもたらされるご縁だったり、わたしを必要だと言ってくれる人に会いに行くためだったり、あとはそう、タイミングだったり。自分だけの理由がなくても、「ひょんなこと」がきっかけとなって、こうしてたくさんの旅に連れ出してくれます。

わたしのこういうところを「主体性がない」、「都合良くつかわれているだけ」と心配してくれる人もいます。確かに、積極的に自分から動いたわけではないし、誰かが開いてくれた道を進んでいるだけのように感じるかもしれません。

それでも、この「ひょんなこと」がきっかけとなって動き出すのは他の誰でもない、わたしの人生です。点と点がつながって線となって、あらゆる方向に伸びています。そこにはたくさんの可能性と、自分だけでは描けないであろう未来があります。それだけでもう、ワクワクして心が騒ぐのです。だから。

わたしの物語は、いつもここから始まるのでしょう。


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