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社会と断絶されるアスリート。社会と繋がるアスリート。

先日、学生アスリート向けの講演にて『社会と繋がるアスリートになる方法とは?』というテーマをいただいたので、そもそもアスリートが社会と繋がっている状態/繋がっていない状態って何だろう?という問いを立てて、お伝えする内容を組み立てていきました。

「社会と繋がるアスリート」ってどんな状態?

講演の冒頭、学生アスリートの皆さんに「アスリートが社会と繋がっている状態ってどんな状態?アスリートが社会と繋がっていない状態ってどんな状態?」と質問を投げかけさせていただきました。

【N高_S高】「社会と繋がるアスリートになる方法~ソーシャルメディア活用術~」 (5)

参加していた皆さんからは

・ファンやスポンサー企業の皆さんから応援してもらえる状態

・世の中に自分の声を届けられるSNSやメディアを持っている状態

といった回答があり、高校生にしてよく考えているなぁと率直に感心しました。


その上で、私がお伝えしたアスリートが社会と繋がっている状態の定義は、

競技内の閉じられた社会だけでなく競技外に広がる社会のことを知り、自分のキャリアの手綱を自分自身が握っている状態

でした。

(このような類の問いに絶対解はありませんが、自分なりに考えてみることに意味があるので、アスリートの皆さんは是非一度考えてみてください!)

アスリートにとっての社会とは、往々にして競技に関わる人間関係に終始してしまうことも。チームメイト、保護者、指導者・スタッフ、施設管理者、OB/OG、先輩・後輩など。競技スポーツの世界はピラミッド構造なので、競技力が高くなればなる程、人数は絞られていく代わりに、選手を取り囲む人間関係はある種の閉鎖性を帯びていきます。

【N高_S高】「社会と繋がるアスリートになる方法~ソーシャルメディア活用術~」 (6)

育成年代で見出されたスポーツエリートは、高校・大学の進路選択もスポーツ推薦やAO推薦でクリアできるでしょうし、必然的に進学先で所属する学部もスポーツ専攻が多くなります。またアスリートが最も多くの時間を過ごす部活動やクラブチーム、プロスポーツチームや企業スポーツチームは同質性が高いコミュニティです。

そのような同質性・閉鎖性の高い環境で過ごす時間が増えれば増える程、アスリートは社会から断絶された存在になっていきます。試合・トレーニング・ケアなど、アスリートにとって競技が最優先であることは間違いないのですが、育成年代や若手の頃から、競技環境の外に情報や知識、ネットワークを取りに行く習慣を付けなければ、社会から分断された存在になっていってしまう。

その行き着いた先が、引退後のセカンドキャリアで行き詰まり、身動きが取れなくなってしまうアスリートの姿です。


キャリアの手綱は誰が握るのか

コロナ禍の影響もあり、近年アスリートの競技環境は非常に不安定な状況にあります。

体操・内村航平選手が東京五輪前にスポンサー契約を打ち切られたり、先日のFC東京バレーボールチームが解散になるニュースはスポーツ界に衝撃を与えました。スポーツメーカーもサッカー選手へのスパイク提供を打ち切り、露出効果を求めてサッカー系YouTuber・インフルエンサーへの商品提供を進めています。

【N高_S高】「社会と繋がるアスリートになる方法~ソーシャルメディア活用術~」 (7)

では、これらの変化がなぜ起こっているのかきちんと理解しているアスリートがどれくらい居るのでしょうか?

スポンサーの契約が打ち切られたり、所属チームが消失したり、サプライヤー契約が無くなって自費でスパイクを買わなければいけない状態に、いつ・誰が陥るかわからない状況です。

そのような状況に陥った時に、誰が自分の満足できる競技環境を保証してくれるのでしょうか。自らがより良い環境で競技を続け、競技者としてのキャリアを最大化するためにもアスリートは競技外の社会のことを知り、自分のキャリアの手綱を自分自身が握る必要があります。

【N高_S高】「社会と繋がるアスリートになる方法~ソーシャルメディア活用術~」 (8)

・どうやって自分たちの活動が成立しているのか
・誰がどんな理由でお金を出してくれていてるのか
・誰が応援してくれているのか
・アスリートはどんな武器やリスクを持っているのか
・なぜ情報発信する必要があるのか / ないのか

日本は企業スポーツの文化が強く、日本で活動するアスリートの多くは個人事業主でありながら、所属チームとは「雇用主と従業員」に近い関係性で競技を続けてきました。

所属チームが選手に対して望むことは「試合で勝利すること」。選手側も試合に出て結果を残すことこそが、自らの評価やステップアップに繋がる最善の道であることは間違いありません。

しかし、既に日本社会における終身雇用制度が崩壊しているのと同様に、アスリートも自分の競技環境やキャリアは自分で守り、高めていかなくてはいけない時代です。

他の人の物差しではなく、自らの物差しで何が重要なのか・何を優先すべきなのかを自己決定していく必要があります。個人事業主、フリーランスであるアスリートの皆さんは特に、です。(昨年独立した自分に対しても、ブーメランで突き刺さります笑)


SNSはあくまで手段

上記のように「社会と繋がるアスリート」とはどのような姿なのかをお伝えした上で、講演ではアスリートが社会と繋がるためのツールとして、SNSの活用について紹介しました。

サッカー系YouTuberに注目が集まっているからといって、サッカー選手がそれと同じかそれ以上のテンションでSNSに取り組むべきかというと疑問です。それこそ、手段と目的の逆転が起こりかねません。

今回、学生アスリートの皆さんには「なぜ競技をやっているのか」「誰に/何を/なぜ伝えたいから競技をやっているのか」を是非考えながら、競技に取り組んでほしいとお伝えさせていただきました。

「日本代表になってオリンピックに出たい。」「ワールドカップでゴールを取りたい。」これらは、もちろん競技に取り組む理由・目的であり、大きなモチベーション。

加えて、アスリートの皆さんには「競技を通じて、何を達成したいのか」「競技を通じて、誰に/何を/なぜ伝えたいのか」を考えて欲しい。なぜなら、それはセカンドキャリアに備えるというよりもむしろ、自分のキャリアの手綱を自分で握るために必要なステップだからです。また、競技に取り組む理由・目的が明確な選手ほど、手段としてSNSとうまく付き合っていくことができます。

繰り返しになりますが、「競技を通じて、何を達成したいのか」「競技を通じて、誰に/何を/なぜ伝えたいのか」を考えるためには、競技力を高めるだけでなく、競技外の社会について知っていなければ難しい。

自分がピッチ上で見せるパフォーマンスが、社会にとってどんな影響を及ぼしているのか、どんな経済循環を生み出しているのかを理解した上で競技と向き合える選手が増えれば、より良い競技環境・スポーツ文化の醸成に繋がっていくのではないでしょうか。


最後に

『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションに掲げるNPO法人izm(イズム)では、引き続きアスリートおよび育成年代の選手や保護者の皆さんを対象にキャリア支援や社会活動のサポートを行っています。

増嶋竜也さん主催 Rebackプロジェクトへの協賛 / 発信サポート 

横浜F・マリノスユースをROOTS.に持つ6人によるプロジェクトROOTS.の運営サポート

ファジアーノ岡山・廣木雄磨選手の情報発信サポート

しっかり稼いで、しっかり還元する。今はまだ特定の選手や個別プロジェクトへののサポートに留まっている状況ではありますが、NPO法人izmは持続可能なキャリア支援の仕組みを作りにいきます。

2022年は僕自身もチャレンジの1年と位置付けて準備を進めているので、またどこかでその内容もお伝えできればと思います!

最後までお読みいただきありがとうございました!


fin.

五勝出拳一(ごかつで けんいち)
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションに、マーケティング支援および教育・キャリア支援を行うNPO法人izm 代表理事◁Revive Inc.◁電通ライブ/テック◁東京学芸大学蹴球部 学連|著書『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』/マイナビ出版 http://urx.red/Fh0w

いつも読んでいただきありがとうござます:)