わがままな彼女
これ、好きじゃないって言ったよね。
わたしは目の前に出された皿をひっくり返した。
派手な音を立てて料理が床に飛び散る。
音に驚いた彼は一瞬眉をしかめ、それからゆっくりと料理を片付け始めた。
なにその顔?
言いたいことがあるならはっきり言えば?
彼は言い返すこともなく、台所に消えていった。
なんでわたしがこんなところにいなければならないの?
こんな面白くもなんともない男のところに。
窓から夜景を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考える。
10階からの景色はとても綺麗で、ここから逃げられないという現実をつきつける。
彼が代わりの皿を持ってきて、わたしの前に置く。
おどおどした表情にイライラする。
「なあ、機嫌直してくれよ。もう少しだから」
申し訳なさそうに声をかけてくるが、わたしは無視して料理に口をつけた。
「おれだっていろいろ考えてるんだよ。喜んでもらえるようにやってるじゃないか。何がそんなに気にくわないんだよ」
彼は言葉を続けるが、わたしは一切答えなかった。
料理を残して、また窓から景色を眺めた。
ピンポーン。
来客を知らせるチャイム。
無意識にドアの方を見てしまう。
小走りで彼は玄関に向かっていった。
「ひさしぶりー」
なれなれしくわたしに声をかけてくる女。
彼女はいつもこんな態度だ。
あまりベタベタされるのは好きではない。
「どう?元気だった?」
ニコニコしながら近寄ってくる彼女に、わたしは諦めたように身体を預けた。
「この子、わがままだから大変だったでしょう?」
「え?いや、そんなことないよ」
白々しく嘘をつく彼をキッとにらむ。
「そう?めずらしい。あなたのこと気に入ったのかな」
「そうだったらうれしいな」
「また今度お願いしようかなー」
「うん。いつでも大歓迎」
わたしは絶対イヤだけど。
彼女はわたしを抱き上げた。
「じゃ、そろそろ行くね。預かってくれてありがと」
「いえいえ、お役に立てて何より」
「お礼に今度おごるね」
「本当?期待してる」
彼女はわたしをケースに入れた。
狭いところは好きじゃない。
ニャア。
思わず声が漏れた。
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