望まぬ戦いの話
とある自己啓発本を読んだときのこと。
面白い内容だったのでアンケートハガキを書くことにした。切手を貼る必要がないし、送付した人全員に手帳がプレゼントされるらしい。
軽い気持ちで投函したのが、これが面倒の始まりだった。
しばらくして、その会社から電話がかかってくるようになった。
恐らく何十万円はするであろう教材を買いませんかという内容だ。
なるほど、このために無料で手帳をばらまいていたわけだ。
はっきりいらないと断り、電話を切った。
それから繰り返し電話がかかってくるようになった。
そのたび「いらないと」と断るのだが、さすがに何度も同じやり取りを繰り返していると、だんだんと腹が立ってきた。
プレゼントでもらった手帳も一度も使っていない。
あるとき、テレビゲームをしているときに電話がかかってきた。
電話主の女性はいかにその教材がすばらしいかということを力説していた。
「……というわけで、この教材をご購入された方はみなさん充実した毎日を送っているんです。やりがいのある仕事をなさり、素晴らしい人生を送っています」
「あなたも使用したんですか?」
よし、今日はやってやろうじゃないの。
「え? はい。わたしも毎日が充実しています」
「へえ。そうなんですね」
「とても素晴らしいですよ」
「こんな電話勧誘の仕事がですか?」
相手が少し黙る。
「ええ。これも素晴らしい仕事だと思っています」
「わたしにはそうは思えませんが」
また沈黙。
「素晴らしい仕事ですよ」
「いや、だってわたしにとって迷惑ですけど」
沈黙。
「今時、そのように自分の意見をハッキリ言われる方はめずらしいですね」
「そうですか?あまりにも勧誘がしつこいもので」
沈黙。
こういうやり取りを小一時間繰り広げると、だんだんと相手の声に力がなくなっていった。多少同情を感じたが、今後また電話をかけられては困る。ここで徹底的にやっておかないと。
相手のメンタルが削られているのが手に取るように分かった。
トーンも下がっていき、やがて相手から電話を切った。
以降、その会社から二度と電話がかかってくることはなかった。
めでたしめでたし。
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