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年の離れた姉の話

私には一回り年の離れた姉がいる。十歳以上の年の差がある姉は、共働きで忙しい両親の代わりに幼い私の面倒をよく見てくれた。私が幼稚園児の時は、ママチャリの後ろに私を乗せて近くの公園やお祭り等に連れていってくれた。他にも夏休みになれば水族館やディズニーランドなど様々なテーマパークにお姉ちゃんと二人で出掛けた。時が経ち、互いに一人立ちして中々会うことが出来ない今でも割と仲は良い方だと思っている。

しかし私は時々思い出す、心に引っ掛かるように残るあの時呟いた姉の言葉を。

あれは何年前の事だろうか。朧気な記憶で定かではないが、確かあの頃の私は小学校3、4年生ほどだったのではないかと思う。近くの公園から家までの道のりを、私は姉と共に歩いていた。日は暮れていたが、暑い夏の日の事でむわっとした暑さが辺りを包んでいた。コンビニで姉に買って貰ったアイスクリームを食べながら、私は平坦な田舎道を進んでいた。学校の事や友達の事など他愛ない話をしながら家まで向かっていた時、急に足を止めた姉が遠くに見える高いマンションを指差して言った。

「ねえ、○○はあそこから飛び降りてみたいって思った事ある?……まだ小学生だもんね。そんなに嫌な事ってないか」

突然のその言葉に、私は息が詰まるような感覚を覚えた。その時見上げた姉の横顔は、普段とは違いどこか無機質なように感じられた。普段明るい姉の初めて見た顔に、何て答えればいいのかわからなかった。それから姉は何事もなかったかのように笑い、私の手を引いて帰った。時々あの時の姉の言葉が、今も耳に反芻する。彼女が何を思って私にそれを問いかけたのかはわからない。当時付き合っていた彼氏との事が原因なのか、勤めていた会社が原因なのか定かではない。けれど姉の背を追い越し、社会で働き始めた私は、あの時の姉の気持ちが少しわかるような気がする。

飛び降りてみたいかと尋ねた、姉の気持ちが。


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夏の思い出

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