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男の更年期

管理している野営場の女子トイレの中に置いているロッカーが壊されたと、清掃を委託している事業者から連絡の電話があった。最寄りの駐在所にも届け出たという。
追っかけ、駐在所から電話がきた。一緒に女子トイレのロッカーを見に行くことになった。

車の中で同僚が言った。
「妻とも話しているんだが、男にも更年期があるんじゃないか。元気がある日もあるし、気分がひどく沈む日もある。」
そうだね、更年期とか男にもあるかもしれない、と言うと続けて同僚は話した。
「今朝なんか天気が悪くて日が差さないから、家の中も薄暗いし、気分もひどく落ち込んでるんだよね。」
確かに今日は今にも雨が降り出しそうな曇り空で蒸し暑い。おまけに霧が立ちこめている。海に面しているからだろうか、この街は夏の間ずっと霧に覆われている。

海岸沿いを走っていくと小さな漁師町の集落があり、道路沿いの駐在所に寄って警官にあいさつした。警官から、野営場のトイレやロッカーはお宅の財産か、と聞かれたので、同僚が台帳のコピーをポケットから取り出す。何年に建てたか言いたかったみたいだが、台帳のコピーの字が細かすぎて読めないと言った。それから、それぞれの車で野営場に向かった。

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テントが5組ほど張られている。炊事場でキャンパーが皿を洗っていた。道路の横はテントサイトで、さらにその先は崖になっていて、海に面している。霧が立ちこめていて、真っ白で海が見えない。女子トイレの戸をノックし、誰も入っていないことを確かめてから戸を開けた。ロッカーは2段とも引き出しをバールでこじ開けた痕があった。写真を撮った。警官も同じく写真を撮り始めている。ゆがんだ引き出しを開けてみると、ポケットティッシュの袋や丸めた紙などのゴミが入っていた。盗まれたものがあるか、と警官に聴かれ、春にトイレの水洗の元栓を開けに来たときには、なにも入ってなかったが、このロッカーは清掃事業者が予備のトイレットロールを入れておくのに使っているのではないかと話した。はっきりしないので、清掃事業者に聞いてみることにした。警官はテントをまわってキャンパーに聞き込みを始めた。10分ほど待って、帰ってもいい、被害届を出すかどうか検討するように、と警官から言われた。

帰りの車の中で同僚が言った。
「歯がだいぶ悪くなって歯医者にばかり行ってるよ。」
自分もとくに歯茎が弱ってきているのを感じる、若い頃は歯磨きをすると口の中がさっぱりしたものだが、最近ではさっぱりしなくなってきた、と言うと続けて同僚は話した。
「うちらの歯磨きの仕方は歯医者さんとかから見ると、歯石とか全然磨けてないのかもしれないね。」

被害届は出さずに、ロッカーを廃棄することにした。軽トラックにロッカーを積み込んで、最終処理場に持っていった。軽トラックのまま計量台に乗り、ロッカーを廃棄場所に投げ込んだ後、再度計量台に軽トラックを乗せた。料金を支払って帰る。

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