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タマムシ 【短編】#7

大きいと次の日学校に持っていき自慢するのが恒例行事見たいになっていた

夏休み直前にそこそこ大きいのが取れたので持って行くといつものように男子が集まってきて品評会が始まる

この中に珍しく遠藤がいた
いつもは休憩時間でも勉強してるのに
「どうだ けっこうデカイだろ」
「カズくん…」
「なに?」
「触ってもイイ?」
「いいよ」
「ありがとう」と言って持ち上げて
「思ったより硬いんだね」と
「えぇ~お前カブトムシ触ったの初めてなのかよ」
と男子全員につっこまれても嬉しそうにしてる遠藤に
「それあげる 持って帰っていいよ」
明るくなった表情も一瞬で消え
「でもお母さんが…」
「いちいち母ちゃんに聞くんじゃねぇ コッソリ飼うんだよ見つかったら逃がしてやればいいじゃねえか」

待望の夏休みに入り1週間が過ぎた頃遠藤のことが気になった
「タケちゃん、遠藤の家行かない?」
駄菓子屋でアイスを食べながら聞くと
「じゃ1回家帰ってカブトムシ持ってから行こうよ どうせバレて逃がしてるだろうし」

ピンポーン「遠藤~君」
「は~い」ガチャっとドアが開きお母さんが「なあに?」
「遠藤君に勉強を教わりに来たんですけど」
「マナブちゃん、お友達が見えたわよ」
奥から嬉しそうに駆け寄ってきて
「どうしたの?」
「夏休みの宿題教えて欲しくてさぁ」
遠藤がお母さんの顔を懇願するような眼差しで見ると「さぁ上がって」

部屋に入るなりタケちゃんが小さい声で
「こないだのカブトムシどうした?」
笑顔が一転暗い表情になり
「次に日に見つかっちゃって……」
「ハハハ 次の日は早すぎだろ」
と笑いながらタケちゃんが
「次は3日間位はバレないようにしろよ」と言って
筆箱に隠しておいたカブトムシを遠藤にあげた

コンコンとドアをノックしてからお母さんがジュースとお菓子を持って入って来たので
「ありがとうございます。いただきます。あとおばさんに相談があります」
「なあに相談って?」
「あの~… 僕とタケちゃんは夏休みの自由研究、昆虫採集するんだけど遠藤君も一緒に行って欲しくて、そしたら綺麗な蝶々の名前とか教えてもらえるからはかどるし その後他の勉強も教えて欲しくて」
おばさんが部屋から出た瞬間3人でハイタッチ
週一で半日ならとOKしてくれた

4時半に遠藤の家に待ち合わせてそこから自転車で30分位かかる

勉強ばかりしてるからちょっと自転車乗っただけでハァハァ息が上がってきた遠藤に
「休憩はしないぞ、早く行かないとカブトムシが隠れて取れなくなるからな」
「わか…っ…た…」

遅い到着だか何とかカブトムシのオス1匹とノコギリクワガタをオスとメス1匹ずつ捕まえてあげさせる事ができた

持参した水筒の麦茶を飲んでると
「二人ともありがとう 僕に捕まえさせてくれて」
「いいんだよ 俺達はいつでも行けるから」
「あと……タマムシを捕まえてみたいんだけど…」
「タマムシ捕まえたいの?それだったら帰りに寄ろうぜ」
「帰る途中にいるの?」
「遠藤の家の裏の梨畑にいるよ ただいる確率は少ないのと……梨畑のおっちゃんがいると入れないからな」
「勝手に入ってるの?」
「当たり前だろ、断って入るバカどこにいんだよ」

梨畑に到着したがおっちゃんがいたので遠藤の家に

部屋に入るなりタケちゃんが窓を開けて梨畑の方を見ながら「遠藤 双眼鏡ないの?」
「あるけど何で?」
「貸して、あ 見えるぞおっちゃんが」
「マジかよ俺にも見せて あぁ本当見える」と俺
「遠藤も見ろよ」と双眼鏡を返して
「いた 見えた」
「遠藤、1時間に1度梨畑を見ておっちゃんがいない時間を調べておけよ そうしたら来週タマムシ捕まえられるかもよ」

1週間後 カブトムシがいる林に向かう途中遠藤に
「ちゃんと梨畑観察したか?」
「うん、毎回1時間に1度見たけど12時から1時間はいなくなるよ あとは夕方の6時頃までいる」
とりあえず帰りに梨畑に行くとおっちゃんがいないので入って探してると
綺麗なタマムシがいた
「遠藤ー、こっちにいたぞ」
駆け寄ってタマムシを見つけると学校では見たことのない本当に嬉しそうな表情で捕まえた
タマムシを虫籠にしまいおっちゃんが戻って来る前に畑を出て遠藤の家に入った

虫籠のタマムシを見つめていると
おばさんが麦茶とお菓子を持って部屋入ってきて
「今日はカブトムシ捕まえられたの?」
とお決まりの問に
「お母さんこれ見て、凄い綺麗だよ」と遠藤が籠を差し出した
「わぁー綺麗なタマムシ、マナブちゃん覚えてたの?」
「うん」
よくよく話を聞くと虫の苦手なおばさんは唯一
タマムシを見てみたいと言ってたらしくお母さんを喜ばせたくてタマムシを捕まえたかったらしい

それよりも遠藤のお母さんが喜んだのが
タケちゃんと僕の二人が遊びに来たこと
小学5年生になるまでに友達が家に遊びに来たことがなかったので二人に頼られ勉強を教えてる姿にホッとした
そして何と言っても遊びに行って
服を汚して帰ってくることだそうだ
それまでは部屋に籠って勉強ばかりしていたから服が汚れることなんてなく
「汚れが落ちなくて洗濯がたいへんだ」と他のお母さん達が言ってたのを実感できて嬉しいと話してたと
遠藤自体ももともと無口でおとなしかったが
僕達二人と遊ぶようになってからは
よく喋り笑顔も増え夕食が賑やかになったとも言っていた

あれから2年 中学生になって初めての夏休み
遠藤は名門中学を受験して見事合格
通学がたいへんだからという理由で都内に引っ越して行ったが夏休みには必ず三人で遊ぶことを約束した
実はこれは遠藤の両親からお願いされた
飛び抜けた笑顔で走り回って遊んでる息子を想像して行う洗濯は凄く楽しいからと

そんな遠藤は明日遊びにくる
たぶん白のTシャツ着てくるだろう


ありがとうございました。

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