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渋谷パルコ~オタクがオタクと遭遇する場~

先日オープンした、パルコが「唯一無二の次世代型商業施設」と銘打った渋谷パルコに行ってきて、感じたこと・考えたことををレポートします。

渋谷パルコは、近年のトレンドである飲食・雑貨をメインに据えた商業施設とは対称的に、アパレル店舗が非常に多いという印象を受けた。そして、それらのアパレル店舗は「どこの商業施設にもあるような低価格ブランド」はなりをひそめ、他の商業施設では見られないような新鮮なブランドが多数見受けられた。さらに通常の商業施設のアパレルのMDは、レディースが圧倒的になる傾向が強いが、「サブカル」路線のメンズが非常に多く見受けられた。

さらに、アパレルフロアを抜け、施設を周遊していくと、施設内に点在するギャラリー、パルコ劇場、アニメ・マンガを扱うショップ、飲食では昆虫食・ミックスバーなどなど、これでもかというくらい「サブカルチャー」の香りを感じ取ることができた。

まさに、渋谷パルコは、非マジョリティカルチャー=「サブカルチャー」が集積した空間であった。


パルコは、「情報発信基地」としての役割を担っていると自負しており、新しいカルチャーを生活者に伝えることこそが自らの使命であるとしている。「サブカルチャー」の集積した新生渋谷パルコはまさにその真骨頂である。

新しいカルチャーを伝えていくために、これまでのパルコは「発信」=「一方的に伝える」ことが主であったように思える。それは、情報が貴重な時代、新しいカルチャーを伝えるパルコの存在はお客様にとって非常に有益であったからである。

しかし、現代は、情報が溢れ、人々の興味関心が分散し、誰もが情報発信の担い手になれる時代となっている。さらには、その溢れる情報洪水の中から、人々は自ら興味のあるカルチャーを選び取り、愛でる時代へと変化している。特に、若年層ではその傾向は顕著で、まさに「総オタク化時代」が到来している。

総オタク化時代、生活者は自らの興味関心があるカルチャーのみの情報が欲しいのであって、その他の情報が積極的に欲しいわけではない。

これまでのパルコの姿勢のままでは生活者に受け入れられない時代が到来したのである。

「新しいカルチャーを伝えることを放棄する」という選択肢もあったと思われるが、パルコはその役割を死守し、この総オタク化の時代の中で生き残る店舗像を模索しようとしている。

そのキーワードは「対話」である。

現代のお客様は、世の中に情報が溢れているので、ただ一方的に伝えるだけでは振り向いてくれない。そこで、新生パルコは、生活者の根源的な欲求である”対話(コミュニケーション)”をベースに施設設計を行っている。


まず渋谷パルコに来てもらうために、お客様同士の「対話」を活性化するような仕掛けを用意する

■カップル・ジェンダーレス・ユニセックスなMDのテナント展開

新生渋谷パルコのアパレルテナントを見ていて特徴的なのは、「レディース」「メンズ」とはっきりとしたMD展開をしているブランドが非常に少ないということである。もちろん、近年のファッショントレンドも影響しているのだが、カップルや仲間同士で入りやすい・入ってみたいテナント展開がなされている。

■館内を周遊することで、「対話」の話題が生み出されるコンテンツ展開

施設内には、複数のギャラリーが存在し、体験型の施設も存在するなど、カップル・友人との話題に事欠かない。B1階を中心として飲食フロアもあえて店舗サイズを小さく設定し、ラインナップ感を持たせ、興味がそそられる。さらに、エスカレーター等の利用なしで、施設の外階段で10階まで上がれるようになっており、外階段からしか入れないお店もあるなど、周遊していて楽しい施設となっている。


そして訪れたお客様が独自のカルチャーと専門性を持った店員(オタク)と「対話」したいと思う仕掛けを施し、新しいカルチャーを「対話」を通して伝える

■思わず「対話」したくなる空間演出

こればっかりは行ってみないと分からないかと思うが、とにかくアパレル売場を中心に、お店に引き込まれる・商品に触りたくなる・店員に聞きたくなる空間演出が非常に素晴らしい。

・各テナント店舗のサイズ感が大きすぎず、小さすぎず?

・各テナント店舗の個性が出やすいように内装の縛りが弱め?

・各テナントがカオス・無秩序に並んでいるように見えるが、見ていて疲れない・・・絶妙なバランス感覚?

等々、理由は想定できるのであるが、思わずお店に引き込まれて、店員と「対話」したくなる空間演出は見事である。

■カスタマイズ商品の提供

新生渋谷パルコでは、「カスタマイズ」を謳ったテナントも多く見られた。カスタマイズを実現するには、店員との「対話」が欠かせない。適宜テクロジーを活用しながら、カスタマイズ商品を提供していた。

■テクノロジー活用で店員を「対話」に集中させる

当然ながら、施設内には様々なテクノロジーを活用したツールが用意されていた。特徴として、例えば「在庫を確認する」「試着の準備をする」といった、これまで店員のするべきことであると考えられてきた業務をテクノロジーに代替えさせていた。お客様との「対話」に集中させるために、いかにテクノジーを活用するのかという明確な視点が感じられた。


総オタク化の時代、自分の興味・関心の及ぶモノ以外には触手が伸びていかないので、消費の傾向は当然ながら「狭く深く」なっていく。

(商品カテゴリーの幅のことを「広さ」「狭さ」、各カテゴリー内の商品ラインナップの量のことを「深さ」「浅さ」で表現している。)

「狭く深い」消費は、ロングテールになりやすいので、リアル店舗よりもオンラインストアの方がお客様の要望に応えられる可能性が高い。

そこで多くのリアル店舗は、商品カテゴリーの幅を増やし、「広さ」を目指している。ただ、リアル店舗では在庫の制限があるので「深さ」を追求することができない。そこで現代のリアル店舗は「広く浅い」ものになりがちである。

オタクにとって、ただ「広く浅い」店舗は物足りない。だから、リアル店舗に行かなくなる。

新生パルコは新しいリアル店舗像を目指している。

独自のカルチャーを持ち専門性を持ったテナント(オタク)を集めて無数の「狭さ」を用意することで「広さ」を形作った。そして、テクノロジーを活用してオンラインとシームレスにつなぐことでリアル店舗の物理的在庫制約から解放された「深さ」を持たせたのだ。

「オタクたちの持つ『狭さ』を集積させて『広さ』を現し、テクノロジーを活用して店舗の『狭さ』をなくし『深さ』を現した」

渋谷パルコは、この新たな店舗像で、「新しいカルチャーを生活者に伝える」というパルコの使命を果たそうとしているのである。


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