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レイコの自分⇔自分 お悩み相談室   1981年17歳 「電車の中で見知らぬ高校生に『こんなブス見たことねえよ』と言われました」

忘れもしない高校2年生の頃。朝、通学途中の電車の中での出来事。

 
今のレイコ(以降「レ」):あれは、なんかもうびっくりしたね。
17歳のレイコ(以降「17」)うん…学校着いて友達に話したら、「それはレイコのことを言ったんじゃないよ」って言ってくれたけど。あの時、声の方を振り向いたら知らない男の子が二人、こっちを見てたから、絶対わたしのことなんだよ。
:同じ高校生?
17:二人とも白シャツに黒ズボンだったから、制服だと思う。どこの高校かはわからない。同じ高校かもしれない。
:本当に、わたしのことじゃなかったかもよ。なんで自分のことを言われたって確信してるの?
17:だって、顔のニキビがすごいから。おでこもほっぺたも、ほんとひどくて。赤いのも白いのもあって、つぶすからボロボロに剥がれて、クレーターみたいでしょ。
:なんでそこまでにしちゃった?
17:中学の頃はこんなんじゃなかった。気がついたらこんなことになってて。鼻の毛穴もすごく目立ってる。
手塚治虫さんが、漫画で自分の似顔絵を描く時、鼻に点々を描いてるの。原稿描くのに追われてずっと顔を洗ってなくて。鏡見たら鼻の毛穴に脂が溜まってたから、みたいなことを言ってたのを読んで、わたしも自分の顔を鏡でよく見たら同じことになってて…びっくりした。

:おー。今となっては、信じられない。自分の外見、顔とか髪を手入れする、っていう概念そのものがなかったんだなあ。
17:そういうの、なんかよくわかんない。モテるクラスメイトは、もとから美人でカワイイからでしょ。わたしは、好きになった人に告白したけど振られた。やっぱり、ブスだからだよね。
:ああ、それ、見た目のせいもあるだろうけど、見た目だけの話じゃないと思うよ。
17:そうなの?
:かわいいとかきれいっていうのは、そりゃあ元の生まれもあるけど、努力の賜物でもあるから。
17:見た目って、努力するものなの?
するものだよ。

17:努力しないと好きになってもらえないの?
:好きな人に、好きになってもらいたいでしょ?
17:それはそうだよ。両想いでつきあってる人がうらやましいもん。わたしも、わたしを大事にしてくれる人が欲しいよ。
:自分が誰かを大事にしたいとは思わない?
17:誰かを大事にするって、どうやって?マンガに出てくる子みたいに、好きな人に気にかけてもらえて、大事にされるだけでいいのに。
:なるほどね。いわゆる「両想い」っていうヤツに憧れてただけだね。
相手のことよりも、自分の気持ちしか見てなかった。自分がどう見られてるかとか、自分をどう見せたいかとか、そんなことも考えなくて、外見どころか内面も磨くような工夫もしてなくて。そりゃ、ブスって言われても、泣いて落ち込むしかできないよね。
17:でも、ひどいよ。わざわざ聞こえるように言うことないじゃん。わたし、そんなふうにわざと人を傷つけるようなことできないよ。
:それはその通りだね。むこうにしたら、「本当のことを言って何が悪い」って感じだろうね。相手が傷つこうがどうしようが関係ない。おまえがブスなのが悪い、ってくらいに思ってるよ。
そんな人間とは関わらないのが一番だね。だから、そんな奴の言うことを真剣に受け止めちゃう必要はないよ。話を聞いてくれた同級生も同じことを言ってくれたでしょ。

17:でも、わたしがブスなのは本当だから。
:じゃあさ、そのブスな自分のことを知ってる周りの人やクラスメイトは、ブスを理由にわたしにひどいことを言ったり、ぞんざいに扱ったりした?
17:それはない。授業のノート貸したりとかもしてる。
:だよね。見た目が全く関係ないとは言えない。見た目も大事だから。
わたしを知ってる人は、わたしのいいところもそうでないところもわかってて、接してるんだよ。自分のこともろくに見えてないもんね。そういう周りの人の気持ちなんてわからないよね。
17:なんか、変なプライドみたいなのはある。低く見られたくはない。でも、自分はダメな人間だとも思う。勉強も中途半端だし、なりたいものもやりたいこともないし。マンガは好きだけど、マンガ家になれるとも思えない。本も読むし、何か書いたりもするけど、誰かのマネばっかりで書きたいことも見つからないよ。
:ああ、そうだろうね。今のわたしも、自分がどこに向かって進んでいるのかっていう確信はないよ。それ以前に、ダメじゃない自分になるためにどうにかしたい、どうにかしようっていう気持ちが、高校時代はなかったよね。親のおかげで衣食住には困ってないし、元からあるもので当たり前だから、文句はあっても感謝はない。ありがたみを感じてない。恵まれてるくせに、自分の小ささの中に逃げてるだけだね。
17:えー。そんなにいじめないでよ。
:なんか、イラっとするんだよ。

17:だって、わかんないんだよ。クラスのみんなは楽しそうだけど、わたしはみんなみたいにできない。なんで、みんなはそんなに話すことがたくさんあるんだろう。
:それはまず、自分のことがわかってないし、わかろうともしてなくて、周りの人に興味もわかないからだよ。あるのは、かわいくて楽しそうな人と自分を比べた劣等感。周りの人のことを考える余裕なんてないよね。楽しそうなみんなだって、悩んだり苦しかったりすることもあると思うよ。
17誰もそんなこと言わないじゃん。わかるわけないよ。
:やっぱりね。見た目だけの話じゃないんだよな。


【足りないのは注意力と観察力と想像力】


自分の見た目に対する劣等感は、おそらくこの高校生のあたりから強くなったように思います。
この頃から、モテる、モテないの差がわかってきたものの、洋服や化粧にもほぼ興味がなく、「自分を表現する」という概念もありませんでした。
それでも自意識はあるので、「恥」のような気持ちは持っていたように思います。

だけど工夫はしない。努力もしない。やりたくないのではなく、そこまでに思いが至らないのです。行動を起こす動機を見つけられないので、当然、「恥ずかしい自分」を変えることはできません。
「好きな人から大事にされたい」という欲望はあるのに、そのためにはどうしたらいいのか、という考えにたどり着けないのです。

見知らぬ高校生に「見たことないブス」と言われたのは、本当にショックでした。
でも、その通り、ブスだったんですよ。なぜ自分の肌はこんなに荒れるのか、と調べることも、なぜ他の人の肌はきれいなのか、と考えることもしませんでした。
自分で自分を大事にできない人間が、他の人の思いや行動に気づくことは難しいです。

何もせずに自分の評価を他人の目だけに委ねていたら、いつまでも自信を持つことはできません。そんな風に気持ちが縮んでいるから、それが見た目にも表れていて、「ブス」が完成されていたのでしょうね。
当時のわたしに圧倒的に足りなかったものは、注意力、観察力と想像力だったと思います。



 

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