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桃を触って逃げる人

#エッセイ #自由律俳句 #今日の短歌 #イラスト #痴漢

 こんにちは、あるいはこんばんは、道成寺夜香でございます。
日が落ちるのも早くなり、うす寒い季節になってまいりました。
こんな季節が訪れると「変な輩が悪さする時期がきてしまったなぁ」と深いため息が出てしまいます。

 私としては謎だと思っていることがあります。
こんな寒い時なのに、何故、肌を露出して、見知らぬ女性に見せつけ周り、反応を楽しむのか、「あんた風邪ひかないの?それでもし風邪ひいたら情けない醜態を晒すことになるんだけど?」と聞いてみたいくらいです。
まぁ、でもそれができたら誰でも罪人になりお縄頂戴になってしまうのですけれども・・・。

 さて、本題にそろそろ入りましょうか?

 これは私が17歳の時の話でございます。
鎌倉の段葛では儚くも可愛いらしい桜が咲き乱れておりました。
桜のトンネルは毎年見るたびに迫力だけでなく趣のある道でした。
古木だというのに、段葛の桜の木は毎年春に咲かせては訪れてる者たちを楽しませていました。

 その年は私たち家族は鎌倉巡りするために牛車に乗り、胸を躍らせながらそこへ訪れたのでした。
母は「せっかくですから、鶴ヶ丘八幡宮にお参りに行きましょう」と段葛前の通りに来て言いました。
 私は、鎌倉の段葛でお饅頭を食べながら桜を眺めるのが好きでした。

 それをぶち壊すことが起こるとは誰が思ったでしょうか?
母と一緒に段葛へ、いざ行こうとした時です、見知らぬ中年の男があろうことか、「失礼」と言って母の桃を触って段葛へ逃げて行ったのです。
それを見逃さなかった私は十二単(当時は母と私は着物でした)をたくし上げ、鬼の形相になって男の後を追いました。

「待たんかコラァ!!!女の敵ィイイイ!」と怒号を飛ばし追い回す私は、まさに能面の般若の顔で、恐かったのでしょう。
歩いていた人々は何事だろうと呆然と見ており、振り返った痴漢の男は私の顔見るなり青ざめて命からがら走る速さを上げて逃げていました。

 もっとわかりやすく言うと、今でいう鬼滅の刃の我妻善逸が竈門炭治郎の妹の禰豆子ちゃんに手を出されて怒りで発狂し、目が血走ったような感じだったと思います。
 要するに鬼という痴漢を滅殺するような勢いだったのでしょう。

 私は飛び蹴りくれて倒してひっとらえてから役人(警察)に引き渡そうと息まいておりました。
ところが、あと少しというところで母の声が後ろからして「夜香!もういいから止まりなさい!危ないから!」と叫んでいました。
 あと少しで捕まえて八つ裂きにしてやろうと思ったとこでしたが、男は牛車が通っているのに関わらず、通りを横切り、いずこかへ消えて見えなくなりました。

 怒りで地団駄踏んでいた私に母は「嫌な思いはしたけれど、あなたが危ない目に合う方が恐い」と言いました。
私は女としても、人としても悔しくてなりませんでした。
「何故あんなことされなくてはならないのですか!馬の糞のような男に私たちは何かしましたか?桜を見に来ただけなのに!あの男の顔は覚えました!次みかけたらただでは済ませません!」
母は怒りで興奮した牛のように、鼻息荒くしている私の頭に手を置いて撫でて「どうどう」と鎮めようとしていました。

母は「まぁまぁ、桜の饅頭でも食べて気をとりなおしましょう」と桜饅頭を買ってきました。
人ごみにもまれて後から来た父は疲れた顔していましたが、ことの次第を聞くと顔には出しませんが、もの凄く怒っていました。

左に父がいて右には母がいて、桜饅頭をちまちまかじりながらその年の春を迎えました。

 歴史上、段葛で痴漢をまるで鬼のように雷落としながら追い掛け回した女は多分、私しかいないでしょう・・・。

 それにしても、何故、よその女の桃を触って何が楽しいのか。
気持ちの悪いこと、この上なし。
 知り合いも、痴漢にあったことがあり、ちらりと振り向くとニヤニヤしていたようで、牛車から降りて友人に泣きついたこともあったそうです。
 恐怖と気持ち悪さでどれだけの人が傷ついていることでしょう・・・。
 今は便利な世の中なので「助けて」という言葉はとても重要であると思っております。

 ちなみに私は鶴ヶ丘八幡宮で「あの痴漢の男があの世へ行きましたら両手首斬り捨てごめんして、地獄の鬼にこれ以上にないくらいの目にあわせてください」と二礼、二拍手、一礼してお願いしてしまいました。
 その犯人が後々捕まることを祈って。

 困った時は「助け」を求める勇気を持ちましょう。

【後日談】
 その話を紫の君にすると「いやぁ、凄い顔だったんだろうな、もう般若だっただろう?夜香が」と笑われ、「私に猿楽で葵上もやれと言うのですか?」と呆れてしまいました。
しかし、「それにしても夜香は何でも閻魔様に頼むなぁ」とも言われ「何を言うのです、下着泥棒しただけでも落ちる地獄があるのですよ」と14歳の時に見た地獄絵巻を思い出していました。
 それがまさか鬼のパンツの刑だとは知らず。
 ちなみに母からは「借りてきた本にそういえば書いてあったわね」と笑っておりました。

 桃の実に 触れただけでも 罪になりけり 仏の道は 遠のくばかり

 それでは皆様、気をつけて冬をお過ごしください。

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