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【小説】「天国のこえ」3章・天国への扉

 「ここに居る皆さん、そしてこれを見ているアナタ、あなた達の目覚めは近い。もうすぐ冬の時代は去り、世界は春を迎えるのです」

 テレビ画面に映る、そう言い終えた「空(くう)先生」は目尻を下げて笑った。
 何回DVDを再生しただろうか。仕事から帰ってからも、休日寝転んでいる時も、私は「その」DVDを繰り返し見ていた。

 気まぐれで手に取った本、「天国のこえがきこえますか?」を、最初私はじっくりと読み始め…、時間があれば繰り返し繰り返し読むようになった。
 その本には、目には見えない世界の真実が書かれていた。
 どれもこれも、内容は腑に落ちるものばかりだった。
 私の人生は、生まれる前の私が決めたモノ。私はより高次元の世界へ行くために、今魂の修行を行っている最中なのだ。

 本を読み進めるごとに、今までの辛い出来事が浮かび続ける。
 修行。
 そう、修行なのだ。
 これを乗り越えたら、この世界ではなく、一段上の世界へ行けるのだ。

 その世界はどんな楽園なのだろうか、と本を捲りながら何度も妄想した。

 そして、「天国のこえがきこえますか?」にすっかり魂を持っていかれた私は、関連書籍やDVDを余す事なく集めた。
 その作業自体が、私にとっては幸せなことだった。
 関連書籍を読み込み、さらに理解を深め、DVDでは、著者の「空先生」が、分かりやすく本の内容を噛み砕いてくれていた。

 「春の時代は目覚めの時期。皆さんの魂のレベルは上がるのです。厳しい冬を越えてきたのだから」
 空先生は、外見でいえば年齢不詳だった。見立てでは…45歳前後だと思っていた。
 柔和な口調、分かりやすい説明、時に笑える要素を入れながら、DVDの中の空先生は、まるで友達に話すかのように滑らかに喋り続けていた。
 私はまるで暗示をかけられたかのように、美しい「天国」の話にどんどん魅了されていったのだった。

 そんな日々が続くある日、
 いつも見るのが日課になってしまった、空先生のホームページに記載されている文章に目が止まった。

 「〇〇県〇〇市の、〇〇会館にて、講演会を開催します!ぜひ遊びに来てください」

 「えー!」私は悲鳴にも似た声をあげた。
 講演会が開かれる場所が、割とすぐ近くにあったのだ。
 「え、え、行きたい。どうすれば行けるんだろ…」
 若干慌てながら、ホームページを確認する。
 「講演会料、3500円。申し込み方法は、入力フォームにお名前を記載の上、当日現金で受付にお支払いください」
 講演会料は、びっくりするほど高額ではなかった。いつも疲れを癒すために行っている整体の料金よりも安い。
 定員オーバーにならないうちにと、私は急いでホームページの入力フォームにて申し込みを行った。

 「空先生に…会えるんだ…」
 いつも本の中か、DVDの中でしか会えない、憧れの空先生。
 毎日毎日会社と家の往復で、疲弊していた私には、空先生に会えることは、正に神様との対面だった。


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